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ら・ねーじゅ No.250
1996.9月号


アルジェンチェール氷河周辺

シャモニー近郊


1996年5月4〜6日                


              L/岡坂準一、山崎義男、加藤康夫、藤田英明


 ゴールデンウィーク山行の主目的であるイタリア国内最高峰「グラン・パラディーゾ」 
を予定通り登頂・滑降し、シャモニーに戻ってきた我々は、設けておいた予備日をいかに 
過ごすかについて検討した。エージェントはモンブランは山頂から滑れるよ、と推薦して 
くれたが、グラン・パラディーゾというメインディッシュで満腹になった後のデザートに 
は少々ヘビーすぎると言うことで、アルジェンチェール小屋をベースに、周辺の氷河を滑 
ることにした。                                  

5/4(土)                              
グラモンテ→アルジェンチェール小屋                     
 シャモニーでまる1日休養日を取った後、昼過ぎにシャモニーのホテルを出発し、グラ 
モンテスキー場に向かう。今回はガイドの奥さんも同行。理知的なフランス女性で、山ス 
キーはほとんど経験がないとのこと。                        
 ロープウェイを2本乗り継ぎ、最上部のル・グラモンテ(3,297m)まで一気に登る。今日 
はアルジェンチェール小屋まで入るだけ。山麓では晴れていたが、山頂はガスの中。アル 
ジェンチェール氷河の下部を滑るゲレンデスキーヤーと別れて氷河の上部へ滑り込む。前 
夜に降った雪が5〜60cmも積もっていて、重く回らないので慎重に滑る。氷河の底   
(2,650m)まで来ると、ガスの下で視界がきいてきたが、今度は暑い。この降りで、加藤さ 
んのストックリングがはずれてしまい、予備のリングと針金で応急修理をする。リングは 
シャモニーのスポーツショップで取り替えたばかりなのに・・・。リングがないと登りも 
降りも苦労するので、予備リングは必携と思う。                   
 シールを付けて約1時間弱の登りで、小屋に到着。このルートはオートルートの入り口 
でもあり、小生も2度目の訪問になる。イタリアと比べると毛布が湿っぽいのがいまいち 
だが、幸いそんなに宿泊客は多くなく、ゆったりと寝ることができた。         

グラモンテ頂上14:15→アルジェンチェール氷河底15:15→アルジェンチェール小屋    
                                   16:05    

5/5(日)                              
(1)アメジスト氷河からツール・ノワールのコル               
(2)ツール・ノワール氷河からアルジェンチェールのコル           
 5時に起床、ぼそぼそのパンとコーヒー紅茶だけの朝食を詰め込み出発。ヨーロッパの 
小屋は夕食は豪華でおいしいのだが、朝はひどい内容である。せめて身だくさんのスープ 
でもあると力が出るのだが。また、行動食もシリアルバーはともかく、ヌガーの類で食べ 
られそうにないものもある。やはり米が朝食、行動食とも一番。            
 小屋から氷河の底まで滑り、シールを付けてアメジスト氷河を登る。比較的斜度も緩く、
幅のある氷河だ。アルジェンチェール氷河をはさんだ、ベルテ〜ドロイ〜クルトの4,000m 
近い稜線を背に高度を上げる。出発時はガスがうっすらかかっていたが、日が昇ると好天 
になってきた。約3時間の登りでコルに到着(3,535m)。遠くにマッターホーン、眼下には 
サレイナ氷河とスイスの山々が見渡せる。絶景!                   
 休憩も程々に滑降にかかるが、2日前に降った新雪の表面がクラストした悪雪。ガイド 
はジャンプターンでシュプールを刻むが、我々は斜滑降とキックターンで慎重に降る。ジャ
ンプターンもトライするが、2〜3回も回れば息がぜいぜい。やはり4,000m近い高所スキー
である。                                     
 標高差700mを1時間ほどで降って、まだ昼前。すぐ隣りのツール・ノワール氷河を目指 
すことにする。もう十分と小屋に帰る岡坂・山崎両氏と別れ、シールをつけ登りにかかる。
この氷河はアメジスト氷河よりも狭く斜度があるため、見上げた感じは迫力がある。ジグ 
ザグに高度をかせぐが、ガイドと加藤氏のペースが速い速い。わずかな行動食だけしか食 
べていないので、小生はシャリバテ気味。先行パーティを追い抜きながら、ノンストップ 
高度差750mを登り、わずか2時間でコルに到着。スイス側の展望はガスがかかって見えな 
い。                                       
 シールをはずし再び悪雪を滑る。午前中よりは表面が柔らかくなってきたが、それでも 
滑りにくいことは変わりない。降りも一気で、小屋に滑りこむ。            
 1日で高度差1,500m余りの登滑降で、さすがに疲れた。               

小屋6:00→ツール・ノワールのコル9:00→ツール・ノワール氷河登り口10:40       
→アルジェンチェールのコル13:00→小屋14:20                    

5/6(月)                              
中央氷河からアルジェンチェール針峰登頂後、グラモンテスキー場に戻る。    
 朝6時、夜が明けないうちに出発。今日はアイゼン・ピッケル必携。アルジェンチェー 
ル針峰にアタックする。今回登った氷河の中でもっとも幅が狭く、斜度のある中央氷河を 
登るうちにベルテ針峰がモルゲンロートに染まる。モルゲンロートはドイツ語だが、フラ 
ンス語では何というのであろうか。今回のヨーッパツアー中、初めててみるモルゲンロー 
トである。早朝のピリッとした空気が気持ちよい。時間がたち、周りの山々に日が差して 
も、この氷河は両サイドにそそり立った岸壁に阻まれ、陰の底に沈んでいる。シルエット 
になった針峰群が、アルプスに来ていることを実感させてくれる。それにしても見事な岸 
壁。岡坂さんがガイドにここはクライミングルートかと聞くが、特にそういうわけでもな 
いらしい。アルプスであれば,これぐらいの岸壁はいくらでもあるのだろう。      
 登っていくと氷河を横断するようにクレバスが見事に横一文字に走っている。そこから 
上部はかなり斜度がきついが、よく見ると、見事なシュプールが刻んである。昨日滑った 
ようだが、よくこの悪雪を中、あの斜度でウェーデルンができるものだと感心するやら、 
あきれるやら。                                  
 クレバスは幅が狭い所を選んで問題なく通過。ここでスキーをデポし、アイゼンをつけ、
ピッケルを持つ。藤田はピッケルと併せ、短くしたストックをもう片手に持つ。加藤・山 
崎の両氏はガイドとアンザイレンで、岡坂氏と藤田はノーザイルで登る。雪は表面は硬い 
が、踏み込めば充分足場が作れるぐらいなので、斜度はあるが、恐怖感はそれほどでもな 
い。登るにつれ、斜度はかなりきつくなり、雪も所々硬くなっていて、緊張する。後で岡 
坂さんが言うには、「スリップすれば一番下まで落ちてしまうよ」とのこと。アイゼン・ 
ピッケルをきかせ慎重に登る。ウン、まさにアルピニズムの世界。           
こんな所でもまだスキーをかついで登ってくるエクストリームスキーヤーがいるのに驚く。
 やや斜度が緩くなると、右手に雪稜が続いている。そこを登りきったところが3,902mの 
山頂だった。「針峰」と言う名前なので、最後は岩と雪がミックスしたクライミングを想 
像していたので、拍子抜けすると同時にほっとする。山頂からの展望は「トレビアン!」。
モンブラン、グランジョラスはじめ、遠くにマッターホーンなど、山また山。岩と雪の起 
伏が幾重にも連なっている。登ってきたグランパラディーゾも見えるはずだが、あまりに 
山が多すぎて同定できない。最後に見せてくれたこのすばらしい展望。我々をしっかりサ 
ポートしてくれたガイドと、そしてパーティのみんなと握手をして喜びを分かつ。    
 さあ、いよいよ降りだ。山スキーだと降りが楽しみだが、アイゼン・ピッケルの場合は、
降りが怖い。降りでは全員アンザイレンする。雪はかなりゆるんで、滑落の心配はやや薄 
らいだが、それでも1,000m続いた雪の急斜面は緊張する。しかも藤田の持ったピッケルは 
60cmと短いので、ゆるんだ雪の降りではバランスが取りにくい。途中もっとも急な傾斜 
の所では、斜面に向かった姿勢で降る。ようやくデポ地点に到着。スキーに履き替え滑り 
出すが、今までの緊張が解けたのと疲れとで踏ん張りがきかず、うまく滑れない。    
 それでも何とか小屋までたどり着き大休止。デポ荷物をまとめて、いよいよこのツアー 
のフィニッシュ、アルジェンチェール氷河の降りにかかる。たらたらの斜度を真っ直ぐに 
降っていけば、すぐにグラモンテスキー場からのルートと合流。ここからの眺めも氷河の 
周りをぐるりと山が取り囲むすばらしいもの。これで当分氷河を見ることがないと思い、 
しっかりと瞼の裏に焼き付ける。あとはスキー場の一部をどんどん降る。最後に氷河から 
分かれ左に回り込んで、ロープウェイの中間駅に到着。入山時には多くのスキーヤーが滑っ
ていたスキー場も、もう営業期間が終わり、雪もまばらなスキー場ではブルドーザーが走 
り回っていた。アルプスの山も、もう春本番。我々も長かったアルプスでの滑りをここで 
終えた。                                     

小屋6:00→スキーデポ地点8:00→アルジェンチェール針峰10:30→小屋13:30       
→グラモンテ中間駅14:45                             
                                 (記 藤田)  


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