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ら・ねーじゅ No.252
1997.1月号


雪崩シンポジウムの      
   パネリストとして参加して


                     96/12/12  酒井 正裕 


 先の11月30日に開催(日本山岳レスキュー協議会主催:労山関係機関)さ 
れた雪崩シンポジウムにパネリストとして参加しました。このシンポジウムは過 
去1回開催されており、今回が2回目です。前回が雪崩についての学習会となっ 
たのに対し、今回は是非雪崩の体験談を踏まえた内容にしてほしいとの出席者の 
要望を反映したことからでした。                      
 私は、当初、山スキーはベテランでも、雪についての知識はほとんど持ち合わ 
せていないことから、本当にこのシンポジウムに参加・発表していいのかどうか、
また、私自身、雪崩遭難に対するわだかまりみたいなものが完全に払拭されてい 
ないことから戸惑いましたが、何かの役に立てればと思い出席することにしまし 
た。                                   

 今シンポジウムでは、上州武尊山、北岳バットレスと私の妙高のケースが発表 
されました。私を除けば、いずれも死傷者を出したケースであり、パネリストは 
それぞれに複雑な想いを胸に抱きながらの発表でした。            
 今でも思い出すのは、パネリストとなった方々と発表前に昼食をご一緒したと 
ころ、上州武尊山の西山邦夫氏から、私の場合は、遭難後の対応が長くまたつら 
い日々であったと話されました。また、北岳の西尾伸也氏はこの事故から立ち直 
るべく参加されたことを、後に中山建生氏から聞く事になりました。山岳遭難は、
当事者や遺族にどれだけの陰を落とすか、人それぞれに思いがあると思うのは容 
易に想像がつきますが、どれだけの深い傷跡を残すかということについては、想 
像し難いものがあります。私のような非常に幸運な場合でさえも、本当のことを 
言えば、心の片隅に人前でこの話はしたくないという気持ちが今でも残っていま 
す。                                   

 さて、議事は上州武尊、妙高、北岳の順に発表されました。上州武尊では、西 
山氏がスライドを使って説明され、西山氏なりの見地から雪崩事故の分析がなさ 
れました。西山氏によれば、雪崩の範囲を確定し、その後の捜索にも役立つよう 
にとポールをたてたところ、その後も倒れなかったことから、そのシーズンでは 
唯一の雪崩であったこと、破断面(CROWN)は、80M上方であり、人工雪 
崩とは考えづらいことが発表されました。このことに対し、中山氏からは、スキー
での衝撃が100Mほど弱層を伝わり、雪崩を起こした事例があるとの説明があ 
りました。また、西山氏からは、雪崩埋没者が雪崩の走路に埋まっていたこと、 
しかも、弱層の下で発見されたことなどの説明がありました。滅多にこのような 
ケースはないだけに、埋没者の発見が遅れた原因の一つに思えました。     

 西尾氏からは、ヘリコプター救助と絡めて説明があり、ヘリコプターのパイロッ
トが西尾氏が手を振る様子を見て、「救助の必要なし。」と判断し戻ろうとした 
ことを述べられたのが印象に残りました。私も知らなかったのですが、普通に手 
を振ると、「救助の必要なし」という合図になり、救助要請の手の振り方は別に 
あることを知りました。中山氏からは、日本のヘリコプター救助は遅れており、 
遭難者の取り扱いが雑なため、救助の際に遭難者にかなりのダメージを与える場 
合があるとの補足説明がありました。                    

 私からは、計画の実行自体が時期的に早かったこと、迂回ルートを見出すため 
には雪について理論的に理解していることが必要であること、これに付随して、 
山行計画を立てる場合は、ルート全体に亘って雪の状態をチェックし、特に滑落 
事故を防ぐために、アイスバーン化した斜面での滑降を避けること、即ち転倒し 
ても必ず止まる雪の状態で滑ることなどを話しました。            

 このシンポジウムに参加して、つくづく考えたことは、雪崩に対しては、「雪 
崩に遭わない方策を考える」、「雪崩にあったらどう対処するか。」の二つの対 
処方法があり、どちらも大切ですが、「雪崩に遭わない方策を考える。」ことが 
先ず大事であることを感じました。しかし、このことは、翻せば「弱層テスト」 
に習熟することが唯一であるように思いました。               

 我が会では、「弱層テスト」について色々と議論があるかと思いますが、やは 
り、今まで私を含めて3人の会員が雪崩に遭っていることを真摯に受け止め、こ 
のことについて十分に議論を尽くし対処する必要があるのではないかと思いまし 
た。                                   


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