ら・ねーじゅ No.253
1997.2月号
冬山合宿
槍平より槍ケ岳 96/12/28〜31
鈴木鉄也、他4名
去年の同時期に、一緒にキリマンジャロを元気に登った、大塚君が、夏頃から
体調を崩し、原因不明のまま、つい先日、若くして他界してしまった。登山用の
ザックと共に納棺され、遺骨の拾骨を行った葬儀で、最後のお別れをした。
一番多く山行を同行した、タンザニアにいる田中君が帰ってから、改めて追悼
山行は行うこととして、少しの力にもなれなかった、慙愧の念を抱きながら、故
人を偲ぶ山行となってしまった。
横尾尾根か中崎尾根から槍ケ岳を、目指す計画で、纏まったが、クリスマス、
そして年末年始に掛けても寒波の様子もない。寡雪状態なので、一番安易な槍平
を上がることにした。槍平と決まれば、また一人スキーを持参。集合場所の駅で
シールを忘れたことに気付く。林道あたりで雪が無いようならば、途中で置いて
おこうと決めて、そのまま出発する。
12/28(土)
少し混んだが、夜行の能登号を乗り継いだ。神岡鉄道終点の奥飛騨温泉口から
は、登山客で埋まったバスで新穂高に向かう。
富山あたりはシトシト雨だったが、登山口では雪となっていた。入山届を済ま
せ、歩き出す。
ロープウェイの駐車場脇から雪道となる。途中のショートカットを嫌って、忠
実に林道を進む。穂高平へ上がり、白出沢出合より、狭い山道となるが、トレー
スはばっちりついている。引き摺るスキーの板が引っ掛かり気味になり、大汗と
共にペースが落ちてくる。チビ谷、滝谷を過ぎ、大雪なら雪崩そうな片斜面をゆっ
くり登って行く。先の樹林帯が、平地となると、小屋のある槍平だ。もう何パー
ティーかが、設営してあった。流水もあり、燃料が節約できそうだ。
雪も止み、晴れ間と共に穂高が陽に照らされ出した。
コースタイム
12/28 小雪、夕方晴れ
新穂高温泉9:15−穂高平小屋11:00−白出沢出合12:15−
滝谷出合14:00−槍平14:50
12/29(日)
好天のようなので、明るくなってから直ぐ出発。何パーティーかも出発した様
子だったが、2〜30分も歩くと先頭になり、以降、ファーストラッセルが続く。
飛騨沢の夏道に沿って進んだが、後からのパーティーは、大概、大喰岳西尾根に
取り付いた。槍平からだと、標高差1,000m以上ある。
飛騨乗越に出る、最後の急登で、アイゼンに履き替えた。降った雪が飛ばされ
た感じで、堅い雪だ。陽が当たれば少しは柔らかくなるだろうと、そのまま板を
引き摺った。
西鎌尾根も雪が少なく、夏道が黒く見えている所さえある。
槍ケ岳山荘の前で暫の休憩後、板をデポして、槍の穂先をピストンした。雪の
付着が少量で、少し、いやらしいが、付いてる雪はフワァフワァグズグズでもな
く、ハードでもなく、ゆっくり歩けば問題なかった。大喰岳を上がった人達は、
何処へ行ったのかと思う程、人が居ない。北穂から縦走して来たというパーティー
と、他に2〜3のパーティーが前後した。
乗越までの、ガラガラ道を又、板を引き摺り降りる。少し下って、大喰岳寄り
に降りれば滑れそうなので、スキー滑降に入る。やや重の雪に、足に力が入るが、
程よく柔らかい雪となる。奥飛騨沢の真っ只中にシュプールを刻む。当初はスキー
など予定もしなかったが、持って来た甲斐があったというものだ。
千丈沢乗越に上がる分岐あたりで、暖かい陽を浴びながら、のんびり休憩する。
登路のツボ足のルートと再度クロスして、大喰沢、中の沢寄りの片斜面を斜滑降
気味に滑る。陽が当たって少し、雪質が重いが、気持ち良く滑る。
夕方5時に、東鎌パーティーがコールする声をトランシーバーで、かすかに聞
き取れた。この時は、大天井岳にいらそうだ。
コースタイム
12/29 快晴
起床3:50・出発6:20−西尾根取付8:00〜8:20−
槍ケ岳山荘11:40−槍ケ岳13:15−槍ケ岳山荘13:35−
飛騨沢14:15〜14:45−槍平15:10
12/30(月)
今日も天気が良い。周りのテントも出払った後に、ノソノソと起き出す。帰る
のも味気ないし、もしかしたら、東鎌パーティーが降りて来るのではないかとい
うことで、もう1泊することにした。冬山ハイクを楽しもうと、中崎尾根を上がっ
てみることにした。1ピッチの急登で、奥丸山だ。槍平も上高地と同様、日照時
間が短くて、10時過ぎから、午後は2時も過ぎれば、陽が陰ってしまう。対照
的に中崎尾根は、目一杯、陽を浴びているようだ。ヨーロッパでは、異常寒波だ
というのに、この日本では、年末年始に掛けて、こんなに穏やかな日が続くなん
て、地球温暖化を思わせるような、異常気象だ。麓から槍ケ岳まで、1〜2日で
登ってしまう。ラッセルで数日苦しめられながら、時には1週間から10日と、
風雪に閉じ込められた昔日を考えると、ラッキーだけでは済まされない。眩しく
白く、輝く稜線を見渡せる日が2〜3日も続いてるなんて、別世界にいるような
気がして来る。中崎尾根には、2〜3のテントがあるだけで、思いの外、少ない
気がした。右俣谷、左俣谷の大きな両方の沢筋が風の通り道となって、中崎尾根
は風庇も殆どつかない。樹林の切れる所で、別れて千丈沢乗越手前の、飛騨沢下
降点から滑り下りた。そのまま、沢の中央に滑り込み、沢筋を下った。昨日と比
べると、随分重い雪で疲れる。早目にテントに戻って、シュラフ干しをする。3〜
40分もしないうちに、陽が陰る。残った食糧が沢山あるので、食べまくった。
お酒が底を突く。
コースタイム
12/30 快晴
起床6:30・出発8:40−奥丸山9:45−飛騨沢下降点12:10−
槍平13:35
12/31(火)
快適だった、槍平を後にする。堅い雪と樹林と、重い荷で、スキー滑降は悪戦
苦闘する。滝谷出合まで1時間もかかってしまった。白出沢までは、スキーを引
き摺った。林道からは、嘘のように楽ちん滑降となる。
新穂高温泉では、焼きそばしか食べられなかった。バスの出発間際に、やっと
東鎌パーティーと交信できた。槍平に間もなく降りるとのこと。富山で待つこと
にした。乗継ぎに時間のあった神岡鉱山でも、お店を見つけられずに、富山の観
音湯でまた入浴し、剣岳早月尾根を愛する会「桝天」のお店に入る。
先客が一杯だったが、2階を開けてくれた。飛び込みの客に、富山の海の幸を
次から次と味わせてくれた。新穂高から、タクシーで直行した東鎌パーティーが
合流し、さらに自称「唄好き」、「酒好き」、「女好き」の桝天のマスターも下
から上がって来て、歌集を広げての歌の宴会となった。
帰りの、能登号も長野からどっと乗客が増えて、少し窮屈であった。
コースタイム
12/31 晴れ
起床5:15・出発8:30−滝谷出合9:30−白出小屋10:30−
新穂高温泉11:40
【概念図】