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ら・ねーじゅ No.253
1997.2月号


荒沢山                 97/1/18〜19  
                        鈴木鉄也、(永野、荒木) 


 柄沢山から足拍子岳を繋いで、コンパクトな山行をしようとの誘い。稜線で雪 
洞利用で、雪山を楽しむ計画。                       


1/18(土) 晴のち小雪                        
 スキー場も一部は、雪不足で滑れない状態だ。リフト降り場の脇から、踏み跡 
のない尾根を登る。土や石が露出した個所も、僅かながらあり、雪洞は諦めなけ 
ればならないようだ。                           

 少ない雪だが、モナカ雪の感じで歩きにくい。柄沢山までは、時々陽が射した 
りで、見通しも良かった。そのうち小雪が舞い始めた。縦走路に出ると、雪質が 
柔らかくなるが、時々、穴ボコを踏み抜き、足取りは捗らない。        

 柄沢山の下りの頃から、ナイフリッジとなり、ザイルを出す。アイゼンは必要 
としなかったが、柔らかい雪の下に、堅い雪があったりして、気が抜けない。以 
降は、荒沢山までコンティニュアスで行く。足拍子沢側が、鋭く切れ落ちている。

 いつも元気のいい、荒木さんが、風邪気味で遅れがちだった。荒沢山で、午後 
3時を過ぎてしまった。風も冷たく、小雪が降りしきる状態なので、少し掘り起 
こした雪の中で、ビバークしようと思ったが、永野さんが、ここから、降りよう 
と言い出した。                              

 それではと、荒沢山の西に張り出す尾根を下ることにした。雪が少なく、ヤブ 
尾根であった。視界が良くないが、高みを下る。1時間程して、高度計を見たら、
まだ150m程しか下っていない様子。地図を見る限りでは、3時間も掛からな 
い感じだ。                                

 950m付近での分岐確認が疎かであった。北側からの冷気を受けて、顔や手 
足の末端が、かじかみかけていた。途中で、ビバークしようと永野さんが言い出 
す。尾根は急で、風が少し強いので、もう少し下ろうと言った。        

 荒木さんのペースがますます遅くなりだす。やがて、辺りが暗くなりだし、ヘッ
ドランプを出す。この時も永野さんがビバークしようと言った。        
 もう少し下れば、平になるだろうし、風も少しずつ弱くなってきている。もう 
少し頑張ろうと言った。                          
 進む下には、関越道の車の音と、オレンジっぽい灯りがかすかに見えかかって 
いるので、高みを下って行けば、まず問題ないと思っていた。         

 先頭の永野さんと繋いだザイルや、足が、混んだ木に絡まって、大分難儀して 
いるので、外すように言った。最後の尾根を1本、間違えたようだ。      

 それから間もなく、ザイルなしでは降りられないような、急斜面となる。沢筋 
をトレースし、対岸に渡った。その後を降り始めた荒木さんが、「あーっ」とい 
う声に、滑落してしまった。止めに入った永野さんも少し滑ったが、勢いのつい 
た荒木さんは、見る見るうちに流れてしまった。「止めろ」という声も無駄だっ 
た。急だが、雪は堅くないので、滑ってしまうのが心配だった。掛け声を張り上 
げながら、降りて行く。だいぶ下るが、応答がない。かすかに見える滑った跡を 
追う。小さな岩をこすった様子がある。次第に不安が大きなものとなってくる。 

 随分下る。荒木さんが滑った痕跡かどうかも怪しくなる。途中で埋まっていた 
らやっかいだ。こっちまで滑落しそうな斜面を、周りの木や、少し滑りながらも 
兎に角下る。後を追う永野さんも、途中で滑った時に顔をぶつけて、メガネを無 
くしてしまう。こんなに落ちているなら、危ないと思った。勢いがついたら、飛 
び落ちそうな急な場所が、2〜3ケ所あった。目の前に大きな滝が現われた。  

「いたよ」。大丈夫そうだが、身動きできないとのこと。スコップで回りを掘る。
ザックが放り出され、雪の中に正座のような格好で、身体半分埋まっていた。流 
れて直ぐ、雪の中に埋まったが、跳ねてるうちに、身体が浮いてきたとのこと。 
滝は途中で水が流れて、岩角が出ていたが、急で飛ばされて、下の雪に落ちて助 
かったようだ。幸い、あれ程滑ったのに、たいした怪我もなかった。その先は、 
もう沢の出合で、急な上に、水の音が大きいので、その横を2〜3mはい上がっ 
て、3人座れるスペースを確保してツエルトを被った。ビレイをして、ローソク 
とコンロで暖を取り、膝を抱え込む格好で、明るくなるのを待つ。       

コースタイム                               
  中里スキー場8:45−柄沢山10:00−荒沢山15:15−      
  滑落・発見19:00〜19:30−ビバーク21:00         



1/19(日)                              
 出合は、真っ直ぐ降りられず、ビバーク地点の急斜面から、ザイルを使って降 
りる。沢の浅瀬を2〜3ケ所、渡渉したが、少し深みとなり、周りの木も混んで 
急になり、左岸を少し登り返し、トラバースして行く。やがて尾根の末端に出た。
林道に出る斜面も最後は、カラビナを残置し、ザイルで降りた。林道も、土樽駅 
に出る橋まで、ラッセルだった。                      

コースタイム                               
  ビバーク地7:30−林道9:10−土樽駅10:50          



 リーダーの過失を、問われても致し方ないところである。永野さんがリーダー 
だったが、同僚でもあったので、いらぬ忠告紛いに、早めのビバークを止めさせ 
たり、ザイルを外させた判断誤りを起こしたのは私である。荒木さんの行動も勝 
手知ったつもりだが、深く反省しなければならない。個人のレベルを越えた場所 
に、リーダー格として同行するには、重責を担う。しかしながら、例え山慣れた 
同僚とて、思わぬ落とし穴があるもの。責任逃れかも知れないが、経験豊かな人 
であれ、山行を行うならば、山行の難易を問わず、シーズン初め、年間というサ 
イクルを通して、或いは問わずに、ハイキング一辺倒の人であれ、数をこなすよ 
うな人であれば、思いもつかないアクシデントに遭遇する。やはり、日頃の訓練 
である。最後は自分である。無能なリーダー格で、こんな事故紛いの結果を起こ 
してしまった。組織行動であるが、行動が伴う以上、がんじがらめの安全行動で 
は、レベルアップとか、多様化する登山に馴染まない。            

 今回は、明かにリーダー責任と言えると思うが、勝手知ったる仲間同士であれ 
ばある程、内包する注意点だと感じる。これ位は、こなせると考えてしまう。言 
い訳がましいが、歩行とか、山での生活技術など訓練以外に上達は望めない、山 
行回数ではない。山の中で、何日幕営したかである。             


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