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ら・ねーじゅ No.254
1997.3月号


創作童話  モモちゃんの白い帽子    

                                高橋智子 

 今日はスキー学校の日です。 小学校三年生のモモちゃんは うれしくて し 
かたがありません。 モモちゃんは スキーが大のとくいだからです。 それと 
もう一つ うれしいりゆうが ありました。それはおかあさんが きのう一日が 
かりで このスキーのために 帽子をあんでくれたからです。 まっ白なモヘア 
の帽子です。 すべっこくって あたたかくって、てっぺんにはまあるいボンボ 
ンがついています。                            
 スキー場でさっそく その帽子をかぶると クラスのみんなが、       
 「わあ、きれい」                            
 「雪のふきだまりみたい」                        
 「たんぽぽのわたぼうしみたい」                     
 と、口々にほめました。 モモちゃんは、                 
 「おかあさんがあんでくれたの」                     
 とくいになって いいました。                      
 午前中は 先生に教わって みんなでスキーをしました。 午後は自由です。 
 モモちゃんは一人でリフトにのって 一人ですべりました。 ゲレンデの下の 
方で 同じクラスのなおちゃんが 一人でちょっとすべってはころび またちょっ
とすべってはころんで、雪でまっ白になっているのが 見えました。 おまけに 
帽子をかぶっていないものですから、頭はびっしょりぬれていました。     
 「なおちゃん かみの毛が びしょびしょだよ」              
 「うん。家に帽子 わすれてきちゃったの」                
 なおちゃんは まるでぬれねずみのように いいました。          
モモちゃんは かわいそうに思って                     
 「あたし もう一つ帽子 もってきてるから、なおちゃんに かしてあげよう 
か」                                   
 といいました。                             
 「えっ、本当」                             
 なおちゃんの声が 明るくなりました。                  
モモちゃんは やどへもどって 帽子を取ってきました。 去年までいつもスキー
用にかぶっていた こん色の帽子です。                   
 「はい、なおちゃん」                          
 と、帽子を わたしました。                       
 「わあ、どうもありがとう」                       
 なおちゃんはうれしそうにいって、帽子をかぶってまたスキーをしました。  
 おもしろかったスキーも さいごの日となりました。 ゲレンデですべってい 
た モモちゃんのところになおちゃんがやってきて かぶっていた白い帽子を見 
ていいました。                              
 「ねえ、モモちゃん。その白い帽子ちょっとかしてくれない」        
 「えっ、だめだよ。これはおかあさんがあんでくれたんだもの」       
 モモちゃんはびっくりしていいました。 こん色の帽子だってかしてあげてい 
るのです。 ましてや大切な白い帽子です。 だれにもかしたくありません。  
 「モモちゃん、この こんの帽子 あたしにはちょっときつくて 頭にちゃん 
と入らなくて すぐおっこっちゃうの」                   
そういえば帽子は 頭の大きいなおちゃんには 見るからにきつそうです。ころ 
んだら すぐに帽子がとれてしまうでしょう。                
 「うーん、じゃあかえる時間までだよ」                  
 モモちゃんは しぶしぶ白い帽子を かしてあげました。そのかわりに 自分 
はなおちゃんがかぶっていた こん色の帽子をかぶって、なんどかゲレンデにシュ
プールをえがきました。                          
 とうとうかえる時間となりました。 モモちゃんはバスにのりこみました。  
後ろのせきには なおちゃんがいたので、                  
 「なおちゃん、あたしの帽子は?」                    
 モモちゃんは聞きました。                        
 「あれっ」                               
 なおちゃんは 頭に両手をやりました。                  
 「あれえ、どこやっちゃったのかな」                   
 そういって ざせきを ごそごそとさがしました。             
 「なおちゃん、どこやっちゃったの」                   
 モモちゃんは なきそうに いいました。                 
 「ごめん、なくしちゃったみたい」                    
 なおちゃんは すまなさそうに あやまりました。             
 (せっかく おかあさんが 作ってくれた 帽子なのに・・・・)モモちゃん 
の目は なみだがあふれて 今にも こぼれそうになりました。        
 まどに目をやると 外はもうくらくなりかけていて こおったような林が 黒 
くにじんでうつりました。                         
 家につくと、                              
 「どうだった。モモちゃん、スキーは?」                 
 と おかあさんが 声をかけました。                   
 「おかあさん、あの帽子 お友だちにかしたら、なくされちゃったの」    
 モモちゃんは なきだしてしまいました。                 
 「おかあさんが またおなじようなの あんであげるから」         
 「いやだ、あれじゃなくちゃいや、あの帽子がいいんだ」          
 「こまったわねえ」                           
 おかあさんは ためいきを つきました。                 
 モモちゃんは、夕はんがすむと、すぐに自分のへやに行って、ふとんにもぐり 
こんでしまいました。 さいしょは ねむれなかったけれど、スキーの つかれ 
がでたのでしょうか。 ちいさなねいきを立てて、ねいってしまいました。   
 そして、その夜、こんなゆめを見たのです。                
 
 モモちゃんの帽子は、なおちゃんがころんで ゲレンデのすみっこのほうに  
おちてしまいました。 そして風にとばされ、ころころころがって ゲレンデか 
ら少しはなれた 森の中の モミの木の下のところで やっととまりました。  
つぎの日、帽子は 朝の日の光をあびて キラリと光っています。 そこへちょ 
うど 木のあなにすんでいたウサギが ひょっこり顔をだしました。 ウサギは 
 ふわふわした白い帽子を見て                       
 「はて、なんだろう。 雪のふきだまりかな?」              
 と思い、ちょっと前足をふれてみました。 ふれてみたとたん、ウサギはびっ 
くりして 前足をひっこめてしまいました。 つめたいような それでいてふわ 
ふわしていて やわらかく ウサギにとっては はじめてのかんしょくだからで 
す。 おもいきって もういちどふれると、ふわっとした あたたかなぬくもり 
が つたわってきました。 ウサギはそれを両手でもって、木のあなにある 自 
分の家にもってかえりました。 ウサギはその家のおとうさんウサギでした。  
家では 小さな子ウサギが かぜでねつをだしています。 かれはを あつめた 
 そまつな ベッドに ねているのです。 おかあさんウサギが 木のみの シ 
ロップをあげても いっこうによくなりません。               
 「ほら ぼうや、おみやげだよ」                     
 といって ウサギは帽子を 見せました。 ぼうやは 目をみはりました。  
おとうさんは 帽子をひろったことを かぞくに はなしました。 おかあさん 
ウサギは帽子をちょっとさわってみて                    
 「まあ、ぼうやの ベッドに どうかしら、大きさがちょうどいいみたい。で 
も外にあったから雪がついているわね」                   
 そういって、帽子の雪を パンパンと はたきました。 それから へやのス 
トーブの前に もっていって あたためました。 少したったら、みちがえるよ 
うに ふわふわしてきました。 それをぼうやの ベッドにしたら ぼうやは  
うとうとねむってしまいました。 かぜも きっとすぐに なおることでしょう 
ね。                                   



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