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ら・ねーじゅ No.256
1997.6月号


妙高北面 濁俣川左俣
濁俣川左俣、右沢と左沢の中間ルンゼ滑降

                        1997年4月19〜20日(日) 
                   酒井正裕、鈴木鉄也(以上、山スキー同志会)、
                        荒木佐子(会員外)        

【概説】
 妙高北面は広大な斜面をもち、山スキーに絶好のフィールドを提供してくれる。最近では、火打山から澄川、天狗の庭から濁俣川右俣、火打山から影火打や新建尾根を経て焼山北面台地を滑るものがよく実施されるようになった。

 しかし、濁俣川左俣については大きな滝がないという情報があるにもかかわらず、滑られたという情報はない。

 本邦屈指の積雪量を誇るこの山域において、この沢が滑られていないのは常々不思議に思っていた。


【行動概略】
第1日 4/19(土)
−笹ヶ峰から黒沢ヒュッテを経て燕尾根 直下の東の台地(標高1050m)−


 ゴールデンウィーク前迄に除雪される笹ヶ峰への道路も、例年になく雪が少ないことから除雪されていた。おかげでタクシーで笹ヶ峰へ入ることが出来、少なからず時間の節約が出来た。天気にも恵まれ、取り付きからのんびりシールで登り始める。

 黒沢の渡渉点までは雑木林の広い斜面を進む。目標物になるものといえば、渡渉点に伸びてきている尾根の末端くらいなものである。どこを歩いても構わないのは却って戸惑うものである。1時間強歩くとやがて黒沢の渡渉点に着く。ここは以前は小さな橋があり、それを渡ったのであるが、近年の集中豪雨のためか沢幅は広くなり荒れ気味である。幸いにしてかろうじてスノーブリッジが残っており、難なくこれをやり過ごし対面の斜面をトラバース気味に登る。昨日土砂降りだったせいか、雪面が堅くシール登高にはきつい斜面だった。途中からスキーを外しツボ足で登る。ここから稜線を経て少し痩せ気味の尾根を登るが、急斜面の続くところである。尾根の幅が広くなり、傾斜も落ちてくれば富士見平は近い。富士見平から少し登った標高2100m手前でゆっくり休む。雲一つなく、たおやかな三田原山の斜面が指呼のうちに望め、本当に気分がよい。

 ここからは、トラバース気味にやや下がりながら黒沢池へ向かう。黒沢岳の山腹を巻くと、前方に雪原となっている黒沢池が見えてきた。この時期の黒沢池は非常に伸びやかで、開放的である。高度を徐々に下げながら黒沢池に向かう。富士見平から黒沢池ヒュッテ手前までは、大きな登りもなくそれほど時間がかからなかった。ここから見る濁俣川左俣は、緩やかで広大な斜面が広がっている。恐らくこの沢の滑降は問題ないと考えていたが、滑り始めはやはり緊張する。一旦滑り始めれば、妙高北面特有の桁外れに広大な斜面が展開し、そのスキーの快適さに我を忘れるほどだ。当初は、左俣の左沢か、右沢か、滑るルートをはっきり決めていなかったが、なんとなく左沢に進路を取る。だだっ広い斜面もやがて沢らしい地形となり、これを避けてこの左側の台地を滑ると滝に出た。予想していなかったので戸惑ったが、とにかく様子を見るためスキーをはずす。 ここから見るこの滝は、その下部が見えなかったが、側壁が立っておりザイルで下降するのは難しい様に思えた。あれこれ考えたが、鈴木氏の「登り返すのは面倒」との意見に賛同し、とりあえず本流と思われる右沢を偵察すべく、トラバース気味に斜上して右沢へ向かう。幸いに、ここから右沢まではそれほど時間をかけずに到達することが出来る。

 右沢の源頭に着くと、この沢から瀬音が聞こえており、このルートを取ることも困難なように思えた。また、先ほどまで晴れていたが、今は時々ガスが出て視界を遮るようになった。 結局、私達の選択肢としては、眼下に広がる左沢と右沢の中間ルンゼを滑るか、あるいは登り返して高谷池へ向かうの二つだった。

 ガスの合間から垣間見る中間ルンゼは、上部は振り子状の斜面であり、滑降は可能であることが分かったが、左沢出合い付近の下部斜面は特に急であり、その状況は分からなかった。 雪が切れていれば相当難渋し、場合によっては下降不能かもしれないが、感覚的に大丈夫であろうという結論に達した。このルンゼの滑降はかなりの賭けではあったが、意を決して滑り込む。ルンゼ上部は正面の急斜面を避けて、右沢側から回り込むようにして滑る。それでもかなりの傾斜がある。ガスの切れ間を見ながら慎重に滑り、ルンゼ下部の滑り口につく。ここから傾斜は更に強くなり、40度をはるかに超す斜面となると共に、斜面の幅もいよいよ狭くなってきた。しかし、下部斜面は途中2ヶ所ほど雪面に亀裂が走っていたものの、幸いにして小さなものであり大事には至らなかった。後1週間遅ければ、厳しい対応を迫られたかもしれない。これを過ぎると、斜面が少し広くなったものの、今度は雪面に石やデブリが散乱し、滑り辛くなった。石や崩壊した氷片が右側側壁から時々落ちてくる。緊張感の途切れる暇はない。しかし、下部斜面は緩やかになっていることが分かり、その先も滑降可能であることが分かった。慎重にここを通過すると、やっと左沢と右沢の出合いに着いた。

 振り返ると、先程下降しようかとも考えた左沢は数十メートルの末広がりのすだれ状の滝を懸け、その左正面に高さ150mはゆうにあろうかという直瀑が懸っていた。大変素晴らしい光景に、暫し我を忘れる位だった。後で判った事だが、どうもこの直瀑が懸る岩壁は大倉山北壁だったらしい。

 右沢に目を転ずると、雪が解けてあちらこちらで水流が覗いている。この光景は、右沢の地形を考えると、何故雪に埋まっていないのか不思議だった。それは、右沢も想像を絶するほど両岸の側壁が屹立し、暗く峻険な様相を呈しており、普通なら両岸からのデブリで谷が完全に埋め尽くされているのではないかと考えたからだった。また、白水社の登山体系によれば、この奥に10m程度の滝があるとのことであったが、残念ながらここからは見えなかった。しかし、恐らくこの滝も、先ほど中間ルンゼの源頭で瀬音を聞いていることから、水流が出ているものと考えられた。

 ここからは、雪に埋まった広くなだらかな左沢を快適に滑り降りる。標高1150m辺りで、左俣を外れ、右俣へ向かう。殆ど登り返しもなく快適であったが、この頃になるとガスが一面に立ち込め、視界がなくなってしまった。無理に下山しようと思えば出来ないこともなかったが、大事をとって燕尾根の東に沿って広がる台地で幕営することとした。


第2日 4/20(日) 晴れ
−燕尾根直下の東の台地(標高1050m)から日曹の発電所を経て岡沢集落−


 朝起きると予想通り晴れて視界がよい。昨日滑った中間ルンゼもここからはっきり望める。こうやってテン場からじっくり眺めてみると、どうやら昨日はここしかないというところを滑ってきたことがよく判った。

 クラストした斜面のスキー滑降を避けるため遅目に出発する。ここからは、一旦燕尾根に登り返して尾根沿いに滑るか、あるいはこのままこの台地を滑るか決めかねていたが、平坦なこの台地であれば雪がついているであろうと考え、そのままこの台地を滑る。予想通り、広い台地は緩斜面ののんびりした滑降の連続であり、途中標高900m付近で発電所の明瞭な刈り明け道を登ったほかは、日曹の発電所までスキーで快適に滑ることが出来た。

 また、途中から見た濁俣川南俣は、以前から密かに滑ってみたいと考えていたが、蟹江健一氏の話の通り、その下部には大滝が出ており、どう贔屓目に見てもスキー滑降可能な代物でないことが分かった。これは、思っていた通り上部斜面が素晴らしいだけに、非常に残念だった。

 発電所からは、林道を少し登り返した後、またスキーで滑る。標高520mまで滑ると除雪されていたので、スキーを担いで岡沢集落まで歩いた。


 滑降高度差1500m以上あるこのスリリングで充実した山行は、この周辺では初の記録というおまけまで付いて、恐らく今シーズン最高の内容あるものとなった。

【コースタイム】

4/19
笹ヶ峰(7:45)富士見平(11:40)黒沢ヒュッテ(12:20)テン場(標高1050m)(15:30)
4/20
テン場(9:45)日曹発電所(10:50)岡沢集落(13:15)


【滑降距離等】

    滑降高度差   約1600m  
    滑降距離    約11.0km 

【概念図】

                                (酒井正裕 記) 

                                (電子化 作野) 


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