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ら・ねーじゅ No.258
1997.10−12月号


北の又川 滝ハナ沢              

                          1997年8月22日〜23日 
                            鈴木鉄也、(守谷、荒木) 

 北の又川は、数年来の憧憬の渓でもある。一度、石抱橋で引き返し、その帰 
り道、衝突事故を起こす、オマケ付きの苦い山行の経験がある。       

 今回は、利根川源流域、そして北の又川の詳細な溯行記録で、この流域の開 
拓にその名を残す、「憬稜登高会」のお一人でもあり、千葉県山岳連盟の運営 
指導委員長である、守谷さんに同行してもらうことになって、願ってもないグッ
ドチャンスを得た。                           

 多忙な守谷さんの日程では、北の又川本流は断念せざるをえなかったが、私 
はシッカイ沢あたりと目論んでいた。既に2人は、溯行済みであるので金曜〜 
土曜の2日間で滝ハナ沢と決まった。久し振りにワクワクするような計画であっ
た。                                  

 千葉から僅か3時間で石抱橋に到着し少し仮眠することが出来た。     



8月22日(金) 曇り                           

 概ね晴れといった感じだったが、北ノ又沢本流の河原歩きをしているころ、厚い雲が広 
がって小雨が落ちてくる。広い河原の所でも、つい最近1mは増水したと思われる、草が 
なぎ倒された痕跡が残っていた。                          

 溯行が不可能どころか、逃げ場さえ失ってしまう流域だけに心配になってくる。    
 箱淵の所は随分と浅瀬になってしまったと言うことだった。左から高巻きは急斜面を立 
木利用で攀じ登る。ゴルジュ帯となり左岸を進むと、また少し河原状となり、平凡なゴー 
ロとなって滝ハナ沢出合い。                            

 すぐ、釜を有するナメ滝が幾つも連なる。美滝である。               

 右に大きく屈折し、またしばらく樋状に流れる小滝を越えて、下部のゴルジュ帯を抜け 
ると広河原になる。                                

 雪のブロックが現れたと思ったら、先に大きな口を開けた雪渓が見えてきた。左の泥だ 
らけの壁から雪渓末端に上がる。                          

 その先、どこをどう登ったのか記憶が曖昧に成る程最後の詰めは予想外のハードさだっ 
た。中間部は大きく3つ程の雪渓歩きだった。                    

 最初の雪渓の終了点は雪渓の下に吸い込まれていきそうな滝を右から斜上し、落ち口に 
立つ。                                      

 その次に雪渓歩きの上部は、三俣のようになっており、真中に6〜70mはあろうかと 
思われる豪快な滝があるが、右壁からは登れそうもなくて、左の大岩の鎮座する小尾根が 
適当と思われた。少し危うげな雪渓を左から回り込んで大岩の上に立った。雪渓から降り 
る時に少し滑って右足のモモの部分をしたたかに雪渓に打ちつけてしまう。左上のルンゼ 
から草付きの際の潅木を頼りに右の小尾根を乗越す。次の雪渓へは40mザイルをダブル 
にして目一杯の所で懸垂下降。                           

 上の雪渓で二俣と言われる分岐があったはずだが、通常登られる駒ケ岳へ直上する右俣 
をこの時は気付きもせず天狗平に向かう左俣に入っていた。              

 やはり、上部は亀裂が入り、また、二俣のようになって左が20m位の滝。直登可能そ 
うではあるが、取り付きが困難のようだ。シュルンドが大きく開いた左からは雪渓を降り 
ることができないし、右からの回り込みはシュルンドの下が崩れ落ちたブロックが立ちは 
だかり、さらに右俣の滝を降りなければ行けそうにもなく結局諦めた。左俣の滝上は傾斜 
も緩く穏やかそうなので残念であった。雪渓を降りられそうな右からルンゼを登り左へト 
ラバースする。下はシュルンドとなっており緊張する。右俣の沢に下りるのも浮き石が多 
く緊張する。このあたりが、奥の二俣と呼ばれる箇所と考えていた。右俣はカレ沢で下の 
雪渓からチョロチョロと流れ落ちる水を水筒に補給した。               

 埋まったブロックを流木利用で越す。全くのカレ沢となった。長い苦闘の入口でもあっ 
た。傾斜のあるルンゼ状の沢は疲れるが忠実に登ることができた。時間はかかるが少しず 
つ高度を稼ぐ。座った状態でならビバークも可能だが水がない。2〜3級程度の岩登りが 
続く。傾斜があるので手も足も疲れてくる。やがて、一見登れそうもない狭いルンゼに足 
が止まってしまう。                                

 ザックを降ろし考え込む。左右からの高巻きは不可能だ。スラブ状で半円にえぐられた 
ような正面の壁は水流があればとても登れたものではなかったが、小さいがスタンス・ホ 
ールド共に僅かにある。                              

 ザイルを固定するため、不安ながら壁に取り付く。何回か振られそうになるが、必死で 
しがみつく。手の力がみるみる無くなってくる。                   

 5〜6m登ると右の潅木に届きそうになる。右への移動も微妙なバランスとなる。頼り 
ないがランニングビレイとし、先は傾斜の落ちない潅木帯となる。とても片手だけでは止 
まってられずに、両脇に抱え込むような滑降で休み休み這い上がる。          

 少し傾斜の落ちた所でビレイをとった。すぐさまザックを持ち上げる力などなくセカン 
ドに上がってもらうことにした。なかなか上がってこなくて時間ばかり過ぎていく。しび 
れを切らした守谷さんが交代してハーケンを打つことにした。ザックを途中のビレイポイ 
ントまで上げてくれた。                              

 2時間程要して、ようやく3人とも上がることができた。ブヨが纏わり付き始めた。そ 
のまま小尾根上を1本ザイルを延ばし、再び沢床に戻った。              

 雪渓の水を補給しておいてよかった。何度かビバークを考えながらも重い足は少しづつ 
高みへと動いた。                                 

 幾度か腕力を要する登攀を強いられる。ガリーと呼ぶような溝が入り込むが本流らしき 
所を休み休み高度を稼ぐ。                             

 もう稜線かと思いつつ登っても登っても同じような状態である。二俣の右はスラブフェ 
ース状のルンゼで、本流かと思われたが左の階段状のルンゼを上がる。そのうち沢床もブ 
ッシュ交じりとなり右の尾根上を上がったりの繰り返しとなった。           

 1ヶ所、テントが張れそうな草付きの肩に出た。水さえあれば言うこと無しであったが、
また一休みして登り続けることにした。もう暗くなり始めた。尾根上の熊笹や潅木帯とな 
り、緊張はなくなったが辛い登りが続く。さすがにウンザリする頃、やっと縦走路に飛び 
出した。                                     

 まだこの時点では、現在地は不明だった。百草の池側の稜線だろうと言う予想だったが、
中之岳側でもありうるので右へ進んだ。                       

 少し行くと「グシガハナと駒ケ岳の分岐」と言う標識があった。縦走路に出たピークは 
中之岳側の1933mの地点であった。駒ノ小屋への下りでヘッドランプを出した。   

 15時間以上を要しやっと落ち着くことができた。一人だけ小屋のなかで寝ていたがす 
ぐ階上から小屋主が起きてきた。「沢屋は何時も時間が遅いから困る。早く寝てくれ。」 
と言いつつも遠い水場まで大変だろうからと、「明朝汲んでくればいい。」とポリタンの 
水を差し出してくれた。ベンチのある広場で食事をとった。寒くはない。かすかな霧雨が 
心地良いくらいだ。僅かなアルコールも、ことさら心地良いものにしてくれた。     

 すっかり食べ終わる頃に小雨が落ちてきた。小屋主も心配して傘を持ってきてくれた。 
さすがに少し冷えてきたので中に入ることにした。                  

 夜中、ドシャ降りの雨で目が覚める。無理して小屋まで辿り着いておいて良かったよう 
だ。                                       

コースタイム                            
石抱橋 5:30 → 岩魚沢出合 7:15 → 滝ハナ沢 8:20 → 
広河原 10:15 → 稜線 18:32 → 駒ノ小屋 20:45   


8月23日(土) 曇り後晴れ                        

 白沢を下る予定だったが長い行動となったので無理せずゆっくり起きて、小倉山から明 
神峠経由で銀山平へ下りた。                            

 いたる所、鉱山に纏わる地名が残る。道行山、骨投沢と女郎との哀史が繰り広げられた 
のだろうと、すっかり寂れた山道を下りながら足の痛みを紛らわすように考え事をしつつ 
も、汗が噴き出し糖尿病さながらに喉が渇ききってしまう。              

 寒冷前線の通過で、平地でさえ激しい雷雨となったが、行動中は心配した雨もなくラッ 
キーとしか言いようがない。                            

 石抱橋の下で北の又川に飛び込み泳いだ。銀山平の船着き場では、生ビールをジョッキ 
2杯立て続けに飲んだ。ワインも空けたら、さすがに眠気を催し、一眠りしてから帰途に 
ついた。                                     

コースタイム                            
駒ノ小屋 7:40 → 小倉山 8:30 → 道行山 9:10 →   
白沢林道 10:50 → 石抱橋 11:30/16:00        

                                (鈴木 記) 

                                  電子化 作野 


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