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ら・ねーじゅ No.258
1997.10−12月号


小出俣沢 マチホド沢        

                               97年10月11日 
                               鈴木鉄也 他計5名 

 沢登講習会の懇親会の時に、戸辺さんが、十数年前にマチホド沢の左俣を遡行したとの 
話が出て、再訪したいと今回は右俣を行くことで計画された。             
                                         
 憬稜登高会の戸辺さん、鈴見さんといえば、越後、谷川そして那須の流域を積極的に取 
り組んでおられ、お人柄も実に味のある楽しくユニークな方々である。一度7月に入った 
時には雪渓が残って滝に取り付けなかったそうだ。スラブの続く秋のマチホド沢は必見と 
のこと。                                     
                                         
 10日の体育の日に、先に出掛けて小出俣沢の右俣、大木穴沢を往復してみる。ナメ状 
に続く小滝やゴーロ歩きの後、奇麗な大滝が現れる。下段のカンテを登ると右に90度折 
れる、3〜40mはあろうかと思われる上段のナメ滝があり、これ以上はザイルがないと 
無理そうなので引き返す。次の機会には、是非完全遡行したい沢である。        
                                         
 川古温泉の駐車場に車を停めた。河原にテントを張り、炭火を熾しノンビリする。早め 
の就寝。                                     


10/11(土) 曇り時々晴れ                     
                                         
 暗いうちの起き、前夜到着した憬稜の方達と合流する。霜が降りるくらいに少し冷え込 
む。ゲートの所からヘッドランプをつけて林道歩き。千曲平に着く頃にはすっかり明るく 
なる。                                      
                                         
 F1まで続く旧道があったが、草が多そうなので敬遠した。初めはやや単調な沢だが紅 
葉とあいまって美しい。12〜3mはあるというF1。ヘルメット、ゼルプストと頭から 
足先まで渓流遡行の身支度に整え登り出す。左から少し巻き気味に上がると、また少し平 
凡になり左から小沢を合わせる。その先が今まで目にしたこともないざっと5〜600m 
程の総ナメが、サワサワとした流れとなって暫く続く。谷川の流域では稀な所である。5 
〜6mある滝を右から越えて、ゴーロになったかなと思ったら、一面赤や黄に色づく山間 
にマチホド沢の核心部である大滝が「ドカーン」という感じで見えてくる。千曲平の橋上 
からも眺められる、迫力ある大滝である。下段30m。若い古谷さんがリードし右側を登 
るとのこと。途中少しヌルヌルするのと、落ち口近くが傾斜は落ちるが故の注意箇所であ 
る。上にビレイポイントがあるらしく順番に登る。上段はさらに高度がありビレイポイン 
トも無さそうなので右の岩溝を詰める。一旦樹林帯に上がる。そのまま直上せず、ほぼ水 
平に左トラバースして滝上に出る。                         
                                         
 水流は細くなり、次は10m一条の滝。左を登ると大スラブ帯となる。天空から落ちて 
くるように、二俣を合わせて水が流れ、右側は大きな壁があり、壁の中は大きな洞窟のよ 
うにえぐれている。洞窟の前に1本の立ち木がある。スラブは上部で傾斜が増す。リスが 
少なく、岩が堅いのかハーケンが打ち込めない。二俣の手前より左の潅木から急な樹林に 
入る。                                      
                                         
 同じようなスラブ状の3〜40mある左俣の滝下に出る。戸辺さんは、前回この左俣を 
遡行したとのこと。樹林にまた入り、トラバースして右俣の本流に出る。すぐにナメ滝が 
続き、150m程のナメ状のスラブ滝が現われ、左側を登る。濡れていれば手強そうだ。 
                                         
 上はナメや小滝となり、もう一度顕著なスラブ滝が現われ、その先水流が9:10で出 
合う二股となる。下降を考えて左に入り、何時の間にか水が涸れ、先でまた二俣となるが、
薮こぎの少なそうな右を詰め、稜線に上がる。一変して、冷たい風が吹きアラレまで降っ 
てくる。小出俣山がすぐ右手だったが、左に向かう。カヤに覆われた窪みが絶好の風除け 
となっており、ビールを出して祝杯を上げた。                    
                                         
 稜線は笹やシャクナゲの掻き分けとなった。当初は稜線を暫く歩いて、十二社の峰より 
の1481m辺りから赤谷川に下降する予定だったが、1720mのピークから1621 
mへの途中で又、急な登りが出てきたので、コルから笹穴沢にほぼ正面に出合う沢を下降 
することにした。                                 
                                         
 山菜取りに登ったような踏み跡がついている。大きな滝こそないが、大事をとって2〜 
3ヶ所ザイルを出して下降。 ヘッドランプを出す直前で登山道に出た。男女4人のパー 
ティーがテントを張ってあった。                          
                                         
 林道をほぼ1時間歩いて出発点の川古温泉に戻った。戸辺さん達は、明日のコンペの手 
伝いに出るといって、そのまま帰路に就く。川古温泉は4時で終りと言われ、ビールだけ 
仕入れて、張りっぱなしのテントに戻ってコンロで暖を取る。             


コースタイム                            
川古温泉 5:03 → 千曲平 5:50 →            
F1(13m) 6:20 → 大滝下 7:10 →         
高巻き開始 8:00 → 滝上 8:30 → 大スラブ帯 →    
左俣滝下 9:55 → 右俣(本流) 10:10 →        
上スラブ滝 10:20 → 詰めテラス(1550m地点) 11:15
小出俣稜線 12:18 → 沢下降岩峰下15:35 →       
登山道 17:3 → 川古温泉 19:57

                                         
 戸辺さんがお勧めの沢だけあって、目を見張る大ナメ帯、圧巻の大滝、スラブ状の大滝、
連続するナメ・スラブと入渓時の静かな渓相から打って変わって、息もつかせない程の景 
観に、時を忘れてしまいそうだった。                        
                                         
 錦秋に染まる今が旬の渓だ。F1を過ぎた所でカメラが故障し写真に収めることが出来 
なくなってしまったが、紅葉の一コマだけでは収まり切れないくらいの、思いで深い沢登 
に、我が山行記録に貴重なページが書き加えられた感じがする。            
                                         
 日本登山体系の谷川編に記載されているとのことですが、かっての豪雪地帯だった頃は 
真夏時でも雪渓が残り、紅葉時は思わぬ降雪で遭難騒ぎが起こったり、入渓者はきわめて 
稀である。                                    
                                         
 人気度を低くしている最大の要因と言えば、稜線に出てからの下降路の処理で、僅かに 
人が踏み入っている感じがするが、猛烈な薮こぎではなく多少のアップダウンと、支稜が 
絡んでのルートファインディングは視界がない時は誤り易い。             
                                         
 戸辺さんの話によれば、前回はスズメ蜂の追われての必死の稜線からの下降だったとの 
こと。そんな伏兵があっても、実にコンパクトに凝縮された遡行の中の、他のビッグルー 
トの渓に匹敵するほどのナメやスラブ、大滝の見事さは一押しの渓である。       


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