Last Update :Nov 29, 1999

富士山   


99/5/2、3、5、9日

 武部単独


5月2日 曇り、霧 富士宮口から

 始めは休みがしっかり取れると思って剣周辺でも行こうと思っていたのに、仕事の関 係でそうも言っていられず近場となり富士山にチャレンジしてみた。寮を5時に出発車 を飛ばす。富士宮口からは雪は所々あるが、山頂まではスキーを何回もはずすことが見 てよくわかった。雪のあるところはすぐそこで、そこまでは観光客に混じって登る。シ ールは付けずに買い物袋に入れて岩の脇にデポしてスキーを引っ張って出発。登るに従 い雲が気になってくる。また、上部のほうが下部よりも雪が少なく黒い岩がたくさん出 ている。これは風が上部の方が強いため雪が付きにくいと思われる。3000mを超え て岩が目立つようになってきたところで、気になっていた雲が襲ってきた。富士山の天 候の変化は5分。雲が来るとわかったらすぐ雲の中になり、視界が効かなくなる。降り る(滑降)することに決める。狭いコースを岩に気おつけながら確実にターンをして快 適に滑る。半分位来るともう雪は腐ってくる。もう1回登り返そうかとも思ったが、丁 度雲の境がここなので降りることにした。下までスキーだとすぐだ。

タイム:
5合目駐車場 8:00 → 3000m 10:30 → 5合目駐車場 11:00

 次は須走り口。東富士山荘の髭のいつものおやじさんに届け出をしに挨拶をしてくる。 なんとお酒をご馳走になって、新しくなった丸太の椅子でゴロリン。


5月3日 曇り、霧、雪、曇り 須走り口から

 樹林帯を抜ける前に雪が出てきて夏道を行かず雪のあるノドを目指す。しかし、須走 り下山道は雪が無くシールで登れずがっかり。さすがに須走りは潜るのでなかなか疲れ るわりに進まない。須走り5合を過ぎてやっとシールを付ける。2500から2800 mまでは快調。でもそこからは斜度がきつくスキーを引っ張る。3030m夏道の小屋 がズラッと見渡せるところからはトラバースだからシールで行けると思い進むがアイス バーンになっているので板をはずす。そんなことをやっていてなかなか進まない。やは りここをシールで行かないと時間的にかなりロスが多い。8合目の小屋あたりからはつ いに時折千切れ雲が襲って視界が無くなる。が、2分で晴れる。それを繰り返しながら 晴れ間を縫って登る。しかし、9合目を過ぎたところで完全に吹雪になってしまった。 残念ながらここで撤退。すぐに滑降準備に入って滑る。あと10分もすればとてもスキ ーでは滑れないほど硬い氷になる。あせる。まだスキーで滑れるアイスバーンでよかっ た。視界が無いのでおそるおそるエッヂを効かせ、すごい音をたてながらゆっくり滑る。 普通の登山者は何事かという目で見る。3030mのトラバースまでくると視界がそれ なりに効き、ここからトラバースだとはっきりわかりほっとする。一休みして須走り口 のノドを目指す。ノドにくるともう雲の中になってしまった。下部の様子は見えない。 上は雲で真っ白。ぎりぎり間に合ったという感じがした。最後は行きと違ったところで 滑降終点になったが、すぐ登山道に出た。
 明日は雨なので帰ることにした。 

タイム:
5合目駐車場(2000m)5:00 → 3030m 10:30 →  3550m(撤退)13:00 → 滑走終了2400m 14:00 →  5合目駐車場 15:30


5月5日 曇り、霧、晴れ 御庭口から

 5日はどうも晴れそうなので寮を5時に出発車を飛ばす。富士五湖自動車道からは富 士山北面には雪は結構あり2500mの5合目の場所がどのへんかが気になった。スバ ルラインに入ると眠くなり途中で一寝入りした。起きるとガスで真っ白。5合目まで行 き散歩がてら吉田口の方へ5分ほど行くと雪が積もっていて運動靴では行けず戻ってき た。なかなかガスが晴れずその辺の散策道を行ってみるがすぐ雪が出てくる。そうこう しているうちに急にガスが晴れ、御庭口の1つ5合目寄りに車で戻る。あせって身支度 をして5合目に行く散策道を登る。白草流しはかなり下まで雪が有り、スバルラインか ら100m上の御中道から5分で雪が出てシールを付けた。腐った雪を登り、ハイ松帯 を過ぎるとだんだんと斜度がきつくなりツボ足に変えスキーを引っ張る。斜度がきつい 分高度はかせぐが、またも雲が西の方からこちらに向かってくるのが気になってきた。 快適な斜面から更に急な斜面になりかけてこのまま山頂まで行けるのだろうかと少し心 配になってきたら山頂の南側から雲がきてあっというまに山頂が見えなくなった。スキ ーをデポして山頂まで往復しようか迷ったが、雲がだんだん降りてきて自分のすぐ上ま できたのであせって滑降準備に入った。あと1時間で山頂なのにまたしても撤退。快適 な斜面を滑る。シールで登ってきたところになると雪が重くターンが大きくゆっくりに なる。ハイ松帯にくると腐った雪の中が空洞で転んでしまった。特にけがは無く慎重に ゆっくり終点まで滑る。

タイム:
御庭の次の駐車場(2250m)10:30 → 2400m(シール) 11:00 →  3400m(撤退)14:00 → 滑走終了2400m 14:30 →  駐車場 15:00


5月9日 曇り 吉田口から

 9日はどうもまだ晴れそうなので8日に寮を出発し2500mの5合目から吉田口に 少し行った所で車を止めテントを張った。3時ころからすでに登っていく靴音がして起 きる。
 すでに何人かは入っている。佐藤小屋経由で登り、6合目の小屋の東側あたりから登山 道を離れシールを付ける。ここまで兼用靴できて実に登りずらく全然ピッチが上がらな い。(以外と雪が出てくるまで長かった)山頂方面の雲があり、太陽が出ず気温が上が らず風もあり、あまりいい感じがしない。7合目あたりからツボ足になり7合目小屋の 上からアイゼンになった。だんだん風が出てきて気温も下がり雪も柔らかくなるどころ か硬くなってきた。風も強くすでにピッケルを使って数回耐風姿勢をとる。だが、まっ たく風の呼吸がわからず、さらに風の方向も変わる。これが北アルプスだと風の呼吸に 合わせて前進と耐風姿勢をとる動作を交互に行ってそれなりに安全を期することができ るが富士山では通用しない。まったく風の呼吸がわからずどの方向からもいきなり突風 が吹く。どうも富士山特有のようだ。8合目まで行かずに降りることに決めた。祠のあ る平坦で新雪がすこしあってアイスバーンではない所があり、そこで休息にした。ここ は安全。アベックのスキーパーテイと、アイゼンを持ってこなかったスキーの2人パー テイがこの安全地帯で同じように休息していた。自分はもう降りますからとアイゼンを 持ってこなかった2人パーテイに言って、行動食を食っているとまた突風がきた。でも ここは安全でしゃがんで降ろしているザックに体重を預ける格好で突風を凌ぐ。しばら くして悲鳴とともにかなりのスピードで回転しながら吉田大沢をザックにスキーを付け て一人が落ちていった。1分してのぞきに行くともう見えない。アイゼンで下ると岩陰 に見つけた。声をかけるとすでに駆けつけた中高年の人が居て応答があった。足の骨折 1本で済んだ。意識明瞭。出血なし。本人はショックで凍えていた。すでに本人はツエ ルトをかぶっていた。すぐに先ほどのアベックのスキーパーテイがスキーで到着し佐藤 小屋に報告することになった。私は残ることになって自分のマット、ツエルト、衣類を 提供する。
 ザックにスキーを付けたまま回転しながら落ちたので、あとはスキーがエネルギーを 吸収してくれて助かったようだ。スキーはもう使えない状態。
 まもなく先ほどのアイゼンを持ってこなかったスキーの2人パーテイが来た。彼らは 骨折したYさんのわりと近くに住んでいることがわかり、駐車場の車を回収することに なった。
 彼らが行って1時間して少しはYさんの凍えも収まってきた。いつ救助隊がくるか不 安になり、また今の曇りの天候がいつまで持つかもだんだん心配になってくる。おんぶ して降ろすか。でも、そう思ってもYさんを少しでも動かそうものなら痛がってとても 動かせない。時間だけが経つ。でも前進しなくてはならない。
 佐藤小屋の兄さんがピッケル1つで何も持たず、ツボ足で登ってくるのが見える。ま だ遠い。そうこうしているうちに上からスキーの人、ボードの人と3人の若い人が来て、 どうYさんを降ろすか検討した。折れたストックで折れた足をテープで固定し、それを もう1方の足にテープで固定した。でもとても上体を起こすことはいたっがってできな い。(おんぶはできない。)
 佐藤小屋の兄さんも到着し、結局今の態勢で(ツエルトに載せたまま)ズリズリと引 きずって降ろすことになった。自分は提供しているものを回収しYさんの荷物はみんな で分担して背負う。始めのうちはそれなりに傾斜がありツエルトは滑ってそれなりに降 ろせたが、傾斜がなくなってくるとなかなか進まない。われわれのスキーの人は斜滑降 で雪馴らしをし滑りやすいようにする。最後は雪の上に石がゴロゴロしていたのでみん なで搬送コースから石を拾っては取り除いてコース作りをしていた。これから先どうす るかを話し合って、スキーで担架を作ろうかと言っていた。それでもまだ来ないので自 分はツボ足で登ってみた。丁度ヘリが来て手を挙げながらYさんのツエルトに近つく。 すぐ目の前までヘリが来たので(3〜5mの高さ)私も佐藤小屋の兄さんも逃げた。ハ ーネス付きのロープをヘリから降ろし何かをヘリの人が言っているが全くわからない。 “付けろ”ということのようで佐藤小屋の兄さんがYさんの脇の下に付けた。まだヘリ の人が言っているが全くわからない。今度は自分が見て、ロープの先端を肩に掛けてあ げて頭が下になっても落ちないようになった。O.K.Yさんの痛い声とともに釣り上 げられていく。釣り上げるとあっという間に行った。ホットした。
 ところが、そこに若い人2人が現れ“もう1人いるんですけど“という。思わず”ヘ リがいるうちに言わなきゃ“と、言ってしまった。案内してもらった。顔面に出血だが、 血は止まっていた。なんとかここまで歩いてきたとのことであった。今も”なんとか立 っている“ 若干放心しているようだ。佐藤小屋の兄さんに任せて自分は戻ると再びヘ リが来て救出していった。
 すでに3人のスキーヤーはもういない。中高年の人と帰る。お互い疲れたのでのんび り降りることにした。途中で休憩していると佐藤小屋の兄さんも降りてきて3人で佐藤 小屋に行った。すでに3人のスキーヤーはYさんの荷物を届けていて自分が持ってきた 物を追加した。丁度警察の救助の人が5人程来た。6合目の小屋まで行ったとのことで あった。Yさんの荷物を回収して行った。
 今思えば、出発が遅れ、登るのも遅かったことで8合目まで行かないうちに突風が吹 いて自分は途中で止めたから助かったと思う。それにしても風は大敵であると改めて思 い知らされた。

 Yさんは、9月から職場復帰されたとのこと。おめでとうございます。


 自分が遭難事故現場に出会い感じたこと。
1 救助で搬送(おんぶ)はできるとは限らない
  (もしかしたら、強制的におんぶするべき場合もあるが)
2 救助されるような事故になるまえに撤退すること

3 自然の変化に敏感になること

4 風を甘く見てはいけない

タイム:
5合目 5:00 → 佐藤小屋5:40 →  6合目7:00 → 祠 8:30 → 佐藤小屋 3:30


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