Last Update : 2008/09/01  戻る

槍ヶ岳紀行

菅澤 秀秋  
【日時】 2008年7月4日(金)〜6日(日)
【同行者】 T氏(61歳)、T氏(60歳)、A氏(55歳)、菅澤(58歳)の4名

7/4 晴ときどき曇り
中房温泉10:45発――(第一ベンチ、第二ベンチ、第三ベンチ、富士見ベンチ)――14:15合戦小屋――燕山荘―燕岳――17:00燕山荘(泊)

飲み友達の槍ヶ岳に登りたいとの希望がかねてよりあり、混雑しない時期を選び、せっかくの機会だからと表銀座を縦走することになった。梅雨時にもかかわらず三日間の行動中は全く降られず、シーズン始めの夏山を堪能することができた。
長野新幹線利用の北アルプスは初めてだったが、新宿からの「特急あずさ」始発でいくより早く松本に着くのがありがたい。穂高駅からのバスの接続が悪いのでタクシー利用としたが4人なので負担にならない。予定の時刻に中房温泉を出発。各ベンチごとに律儀に休みながら合戦小屋到着。名物のスイカを買ってみたらとても甘くおいしい。皮が薄く、食べられる部分が多いのも得した気分にさせてくれた。元気を取り戻して燕山荘へ向かう。小屋のすぐ先から残雪の道となり森林限界を超えるあたりからの風も心地よい。稜線にでると雪はなく、風化花崗岩の燕岳を眺めながら最後の一登りで燕山荘に到着。受付を済ませたあと、空身で燕岳を往復。山頂には私たち以外に二人だけであった。
今日の燕山荘は10名ほどでガラガラのせいか従業員の愛想もよい。着替えをすませ早速宴会。まずは生ビールから始まり、ウイスキーへ進むが、皆自分の持参分から飲ませようとする。食堂脇のサンルームでオダをあげるうちに夕食の支度ができたといって呼びにきた。混雑している時はこんなことはあり得ない。ゆったりと食事を楽しむことができた。売り物のオーナーのアルプホルン演奏はなかった。

7/5 晴
 燕山荘4:30発――6:45切通岩――7:30大天井岳――大天荘――8:15大天井ヒュッテ――
赤岩岳――11:30ヒュッテ西岳12:00――13:00水俣乗越――15:00ヒュッテ大槍(泊)

いよいよ稜線漫歩の始まりである。天候も申し分ない。前日、燕山荘で聞いてみたら、この一週間に槍方面に向かったパーティーはほとんど無いそうだ。たしかに表銀座縦走路〜喜作新道の間は雪解けで崩壊しそうな登山道や雪渓上に歩いた痕跡はほとんど見られなかった。
蛙岩から喜作レリーフのある切通岩までの2kmほどの砂礫の稜線は一面咲き始めたばかりのコマクサの群落となっていて十年分のコマクサを一度に見たようであった。切通岩では大天井岳を回避し直接大天井ヒュッテに向かう三名と別れ、一人で大天井岳に向かう。途中二箇所あった急な雪渓のトラバースでは緊張させられ、ピッケルを持参してよかったと思う(アイゼンは持参せず)。二つ目の雪渓は大きくカーブになっているので対岸が見えず、見当をつけながら適当に登っていくと大天荘の前に飛び出した。夏道通しに来たことになるが、この時期は危険なので切通岩から直登するのが正解だったようだ。大天荘は6/28から営業を開始しているが今週の宿泊客はいないとのこと。山頂で展望を満喫した後、大天井ヒュッテに駆け下る。途中三箇所の小雪渓では落石もちらばっており、トラバースにまたも緊張させられる。大天井岳周辺の雪渓上のルートの雪切はまだのようである。
20分ほど前に到着していた三名には先発してもらい、朝食弁当をぱくつく。大天井ヒュッテは増築工事中であった。ヒュッテからすぐの「貧乏沢入口」あたりの下降点を偵察。最近は湯俣からよりも、貧乏沢を下って北鎌尾根に取り付くパーティーが増えているようだ。この先で先行した三名と合流。
ヒュッテから赤岩岳、西岳を巻くあたりの登山道周辺にはハクサンイチゲ、ミヤマキンポウゲ、イワウメ、イワカガミのほか名前を知らない高山植物が咲き乱れ、良い時期を迎えている。
晴天なのにこの付近で四羽の雛を連れた雷鳥と六羽の雛を連れた雷鳥に連続して出逢う。親雷鳥の腹側はまだ白い冬毛が残っている。四羽の親鳥は警戒音を発し羽をばたつかせながらわざとよたよた歩き、必死になって自分に注意を向けさせ、雛が逃げるのと反対方向に私たちを誘導しようとしていた。その様は涙ぐましいほどであったが、六羽の親鳥の方は雛を羽の下にかばうようにしてじっと動かなかった。ずいぶん違う行動様式である。雷鳥は中央アルプスや八ヶ岳、白山などでは絶滅したとされ、北アルプスでも25年前と比べると生育地が四割も減ったそうだ。温暖化で積雪が減ると鹿や猿が標高の高いところまで進出し、雷鳥のえさとなる植物を食べてしまうため絶滅が危惧されているとの報道を見たことがある。
ヒュッテ西岳のテラスではこれから登る東鎌尾根を眺めながら缶ビールで休憩。ヒュッテ西岳も6月下旬から営業しているとの情報を得ていたがここも宿泊客はまだいないとのことであった。小屋番は屋根での布団干しに忙しそうである。小屋の前後の登山道は大分手が入れられ、シーズン前の修復は終わっているようであった。
水俣乗越へは針金や傾いたハシゴを伝い浮石の多い道を急下降するがなかなか着かない。登り返しを考えると罵りたくなる。日陰のない東鎌尾根の岩稜を2時間ほどで雷鳥平のヒュッテ大槍に到着。今日出逢ったのは水俣乗越付近ですれ違った登山道補修の山小屋関係者三名のみであった。途中の小雪渓も彼らのおかげで雪切がされていたので安全で歩きやすかった。ご苦労には感謝したい。
天候・時間に余裕があるので、あと1時間ほど頑張って槍ヶ岳山荘に泊まろうとの提案は同行者達に却下され宿泊することにする。ヒュッテ大槍は7/4からの営業開始を確認して来たのだが、小屋番たちは槍ヶ岳山荘まで行けよ〜みたいな雰囲気である。食事は提供できるが、布団は干してないし、水もないという。洗面どころかトイレの手洗い水もなく、小屋脇の残雪でタオルを湿らせて我慢する。それでも洗面器に天水を二杯、洗面所に用意してくれた。石油ストーブ2台で部屋を暖め、急いで一部屋だけ荷物を片付け、泊まれるようにしてくれたようだ。すまないと思ったか一本ずつペットボトルのサービスを受ける。まあテント泊することを考えればどうってことはないのだが。
陽が槍ヶ岳山荘の裏に隠れるまで残雪上のテーブルで小宴会。夕食はウェルカムワインのサービス付きでしっかりした食事だった。湿った布団が気になったが、疲れからいつの間にか寝てしまう。

7/6 晴のち雨
ヒュッテ大槍4:30発――5:30槍ノ肩――6:00槍ヶ岳――6:30槍ノ肩――殺生ヒュッテ――
坊主岩屋――10:00槍沢ロッジ――槍見河原――11:30横尾――徳沢――明神―― 
14:45上高地

大天井岳に昇るご来光を拝みヒュッテ大槍を出発。まだ冷たい岩稜を1時間ほどで槍の肩に到着。目の前一杯におおいかぶさるように聳え立つ槍の穂先を見て「怖いからやめる」というT氏を山荘前に残し、空身で山頂に向かう。右斜上トラバースの後、小槍側へ回りこみ最後は二段の鉄ハシゴを昇ると小さな祠だけが据えてある奥行き10mほどの細長い頂上に飛び出す。360度の展望が三人だけのもので贅沢な気分である。南アルプス、八ヶ岳までは見えるが富士山は見えなかった。なぜか山頂に立つと富士山を探してしまうのは私だけだろうか。
槍ヶ岳山荘前で朝の弁当をぱくつき、槍沢を下山開始。殺生ヒュッテまでは雪が無かったが、そこからは雪渓のなかを降る。坊主岩屋を過ぎ2600m付近からの夏道を嫌い、同行者にはせっかく携帯した六本爪アイゼンを着けてもらい急斜面をまっすぐ降ることにする。途中からは灼熱の鍋底となった雪渓をグリセードで遊びながら、割れかけた雪渓末端で夏道に移る。一気に大曲りを過ぎ、水の豊富な槍沢ロッジで残った食料を片付ける。槍見河原で振り返ると樹木の上に遠く槍の穂先が見えていた。
膝の痛みや疲れを全身で訴えていた同行者たちも横尾からは意地になって上高地まで飛ばし、予定どおりのバスに乗車できた。発車してまもなく雨となり本当に天候には恵まれた。松本からは中央線の特急で新宿に向かう予定だったが大雨で運休となってしまい、振替乗車となった長野新幹線で帰京した。今回は夏山の良いところオンパレードの大満足山行であった。
2008.7.15  記