Last Update : 2008/09/01  戻る

飯豊紀行

2008年7月19日(土)〜20日(日)   飯豊山(2,105m)、 大日岳(2,128m)   
メンバー:鈴木 岳、菅澤 秀秋

昨年の5月連休に石転び沢に行った時は二日目が強風とガスの悪天で、当初予定の大日岳を往復するどころか目の前の北股岳にも登らず石転び沢を滑降しただけだったので、いつかは稜線を歩いてみたいと思っていた。どうせなら飯豊連峰のなかで最も体力が必要と言われている大(ダイグラ)尾根から本山経由、連峰最高峰の大日岳を往復し、主稜線を杁差岳まで二泊三日で踏破し出発点に戻るという、なんとも魅力的で欲張った体力練成計画を組んでみた。YSD総会後の懇親会で鈴木さんの参加が決まり、梅雨明けが期待されたこの三連休に出かけてきた。
大粕根は飯豊本山に直接突き上げる尾根で、長さ・標高差など連峰中トップクラスのハードさでその名を知られているが、今回つくづくなるほどと思わされた次第。

7/19  晴れ時々ガス
飯豊山荘5:40――温身平――6:30桧山沢出合吊橋―9:00休場の峰――千本峰――
12:00宝珠山肩――14:20飯豊山――16:20御西小屋(避難小屋泊)

前夜、東京発が遅れたため飯豊山荘着が4:00となってしまい、仮眠後の出発が予定よりだいぶ遅くなってしまった。駐車場には50台ぐらいの車が停めてあり多くは出発したようだ。湯の沢ゲート脇の臨時の登山指導所で入山届を提出。今日の大粕根は三人が先行していると知らされる。
天候は二日間ほど持ちそうである。温身平を右に分け、その先の分岐を直進すると道脇に太陽パネル式のカウンターが設置してある。のぞきこんで見ると「入山者計数機」とあり、なるほどと感心する。
だんだん細く山道らしくなる玉川の左岸をいくと桧山沢出合の吊橋に出る。長丁場の登りだし、熱中症も心配なので持参のペットボトルだけでは心もとなく水を補給。吊橋の床板は、工事現場の足場に使われるような幅60cmほどの鉄板が渡してあって歩くとかなり揺れた。
吊橋を渡るといきなりの急登が始まる。「長坂清水」ではペアが一組休んでいたので話をしてみると、この大粕根に備えて先週、丸森尾根を登り梶川尾根下山のトレーニングを積んだという。彼らとはこの後、梅花皮小屋まで前後することとなる。
深い樹林の急登を2時間ほどで「休場の峰」と思われる場所に出たが、太陽の直射が厳しいので少し先の日陰で最初の休憩。ここからはガスが切れるたびに累々とピークが連なって見える。事前に地形図を見てポコの数を数えていた(10個ほどあり、桧山沢出合吊橋からの累積標高差も1900mを超えそう)ので、ある程度心の準備はできていたが、この先の登りの厳しさが思いやられた。
千本峰の岩場を過ぎ「宝珠山肩」のあたりからは左側がすっぱりと切れ落ちた足場の悪い岩稜のトラバースが続く。緊張するところだが、ところどころに咲いているクルマユリが心を和ませてくれる。トラバース箇所に雪が残っていたらピッケルが欲しくなるだろう。
遠くに端正な三角形の宝珠山ピークが見えていたが、いつのまにか通過してしまう。このころになると歩くスピードがトラックのローギア並みとなり、休憩の頻度も1時間毎になってしまう。それでもいつの間にか森林限界を越え、少し斜度が緩んだ御前坂の砂礫帯となったころに山頂の標柱らしき柱が見えてきた。陽射しはきついが涼風が吹き渡り、また周囲はヒナウスユキソウやチシマギキョウ、イワカガミの群落となっていて疲れが癒される。
やっとの思いで山頂に着いたとたん、躓いて頭から突っ込み、かばった右腕が岩の角にあたり痛めてしまう。それでも大粕根を登りきったという喜びで痛みはあまり感じなかった。振り返ると宝珠山のピークが二つ、ガスのなかに浮いて見える。
このコースは導標が極端に少なく、また普通だったらまず設置されていると思われるような箇所にもロープ・クサリ・ハシゴのたぐいは全く無かった。豪雪で設置してもダメなのか、それともそういう性格のルートとして存在意義を発揮しているのだろうか。
二人だけの静かな山頂からは御西岳への稜線や大日岳が見渡せたが、小屋でゆっくりしようと一服しただけで出発。ゆったりと幅の広い稜線にはニッコウキスゲを始めイワウメ、チングルマなどの高山植物が満開で、花を観賞しながらゆっくりと御西避難小屋に到着。御西岳周辺の谷はどこを滑降してもすばらしそうに見えた。
小屋は予想に違わず?定員一杯の満員であった。とりあえず小屋から大日岳方向へ10分ほど降った雪渓末端の水場で8Lほどの水汲みを済ませ、汗をぬぐいさっぱりする。ここの水はあまり旨くなかった。
小屋の北側はキンロバイの大群落で、落日をバックにすばらしい夕景が広がっていた。
二階建の小屋内部は1〜37番までスペースが区切られ、私たちには30、31番が割り当てられたが、先着者たちがコンロと鍋を囲み談笑していて座れそうも無い。それでもこの時期常駐の管理人が先着者たちに声を掛け空けてくれたスペースになんとか落ち着くことができた。
まずは冷たい水割りでのどを潤し人心地が着いたところで鈴木さんが鍋奉行の腕をふるう。担ぎ上げた生米をコッフェルで炊いたが、毎度のことながら腕前には感心させられる。生の長ネギを入れた納豆も贅沢な気分にさせてくれた。レトルトカレーとキムチスープで夕食を済ませ19:00には寝てしまった。夜中にスプレーサロンパスを足に吹きかけたが臭いがきつく、互い違いに寝ていた鈴木さんには迷惑をかけてしまった。

飯豊山
ダイクラ尾根

飯豊山
御西小屋からの夕日

7/20  ガス一時雨、時々晴れ
御西小屋5:30――6:30大日岳――7:30御西小屋8:00――烏帽子岳――梅花皮岳――
12:00梅花皮小屋12:40――石転び沢――温身平――16:15飯豊山荘

4:00に起床してみると強風とガスである。それではと予定を変え朝食を先に済ませることとし、マルタイではないとんこつ棒ラーメンと残りのご飯で食事。これがなかなか旨かった。
風もおさまり明るくなってきたので空身で大日岳へ向かったが、うまいことにガスも上がってきて本山小屋から北股岳までの稜線が一望できる。本当に晴れていれば日本海が見えるとの事だがそこまでの展望はなかった。
戻る途中パラついてきたので小屋で雨支度をして烏帽子岳方面に出発。だがこのあと温身平まで降られることはなかった。
気品あるヒメサユリやシラネアオイ、かわいらしいツガザクラなど途切れもなく咲いている花を楽しみながらの稜線はなんとも快適だ。
天狗岳、天狗の庭、御手洗の池を過ぎ、途中で今回初めて20名ほどの団体2パーティとすれ違う。彼らから門内小屋の昨晩の混み方は半端でなかったこと、また梅花皮小屋はパンク状態だったと聞かされ、御西小屋の一人当たり50cmのスペースはまだましだったと納得。
烏帽子岳手前のクサイグラ尾根分岐あたりで鈴木さんの独り言が聞こえてくる。「下界で旨いものを食べたい。」まもなく老鶯の鳴き声「ホーホケキョ」が「バーベキュー」に聞こえると言い出し大笑い。すっかり里心がついてしまい、梅花皮岳で石転び沢から登ってきたという二人連れから雪渓の様子を聞いた後には「アイゼンつけて石転び沢を下山」と決定。
治二清水の旨い水で喉を潤し、梅花皮小屋でゆっくりとコーヒータイム後、下山開始。小屋直下の急な雪田を右側から巻いて、中ノ島の末端でアイゼンを着ける。楽をしようと雪渓をどんどん下るうちに石転び出合を過ぎたあたりで割れてしまっていて、左岸の夏道へも戻れなくなってしまった。やむなく割れかかった雪渓を登り返して夏道の入口を探すはめとなる。夏道に入ってからも途中で再度雪渓上を歩きまた夏道に戻ることを繰り返し、ようやく温身平への林道に出る。この夏道も崩壊斜面のトラバースなど楽ではなく、昨年もスキーを担ぎ、兼用靴で苦労したところだ。でも今年は残雪が多いようだ。林道を飯豊山荘まで飛ばし、山荘の温泉でさっぱりする。
今回自分のなかでは目的の70%程度が叶えられたが、杁差岳までの主脈北半分は次回にとっておくこととなった。また、是非見たかった固有種のイイデリンドウにも出逢えなかったのでこれも次回を楽しみにしよう。
帰途、米沢市内の米沢牛専門店で舌鼓をうち、ETC深夜割引を効果的に利用し帰京。
下山後、関東甲信は7/19に梅雨明けしたことを知った。                        菅澤記