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ノルウェーの山スキー(その2)

2005.4.29-5.7&2006.5.1-5.6

メンバー:岩夫妻

今回は、前回のTromsoに引き続き、ノルウェー北部北極圏の代表的山スキーエリアである、Narvik地域(ノルウェーの山スキー(その1)の図1参照)を紹介する。ここには非常に多くの山スキールートがあるため、何回かに分けて、紹介したい。

(B)Narvik地域の山スキー#1

Narvik(図2のa)は、Tredjetoppen山(1272m、図2のb)の裾野が急激に海(フィヨルド)に落ちる際にある港町で、深いフィヨルドのため、波静かな天然の良港である。

Narvikは、この特長を生かし鉄鉱石の積出港として発展してきた。このNarvikから東へ170kmのところに世界有数の鉄鉱山(Kiruna)がある。今から約百年前の1903年、その鉄鉱石の積出のため、このKirunaとNarvikの間に鉄道(Ofotenbahn)が引かれ、鉄鉱石の輸出が開始されたのがこの町のはじまりである。このため、第二次大戦では激戦地となったことでも有名である。

最近は、もちろん鉄鉱石積出港としての重要度はいささかも変わってはいないが、更に大型船舶が接岸可能な大西洋最北の不凍港で、かつ鉄道が直結している港として、ロシアや中国からアメリカ方面への物流の拠点となりつつあり、ますますその重要度が高まっている。

図2


このNarvikは雪が多くウィンタースポーツの町でもある。前述したTredjetoppen山には、標高差850m、リフト、ゴンドラ5本のスキー場がある。このスキー場は世界最北のスキーワールドカップ認定コースでもある(滑降)。スキー場へのアクセスは市内循環バスでダウンタウンから数分である。太陽の上がらない12月から2月はスキー場はいつもナイターである。もっとも、スキー場オープンタイムはウィークデーは17時から21時まで、ホリデーは10時から17時である。

Narvikは、前号で紹介したTromso同様、オーロラ観測のメッカでもある。Narvik在住のノルウェー人友人によると、真冬はスキーしながらオーロラも見れるらしい。

 Narvikから鉄道(Ofotenbahn)で小1時間行くとノルウェー・スウェーデン国境にスキーリゾートのRiksgransen(図2のc)があり、ここでもスキーやスノボーが楽しめる。このRiksgransenは、ベースの標高が500mと高いため雪質が良くシーズンも長い。5月は、Narvikスキー場は年によっては雪が少なくクローズの場合もあるが、Riksgransenは必ず雪がありオープンしている。Riksgransenのスキー場はNarvikと違いウィークデーでも朝からオープンしている。

Narvikには二つ空港がある。市内にあるプロペラ機(近距離便)しか離着陸できないNarvik空港と、市内からバスで1時間10分のところにありジェット機(Oslo等からの長距離便)が離着陸できるHarstad-NarviK空港(EVENES Lufthavn、図2のd)である。Osloからは1時間40分で着く(1日8便程度)。またスウェーデンのStockholmから1日1本直通の寝台列車が走っている。Stockholmから約19時間かかる。

NarviK周辺は1800m級の山々が連なり(最高峰 Storsteinsfjellet山 1893m、図2、図3の1)、かつ雪が多い(積雪2〜3m)。前回、ご紹介したTromso地域よりもかなり雪が多く、豪快なダウンヒルが楽しめる。4月始めのイースター休暇ころまでなら川の渡渉に苦労することも少ないようだ(5月は川によっては注意が必要)。氷河も多いが、ノルウェーの他のエリア同様、5月までなら、ヒドンクレパスに心配する必要はほとんどない。

このようなわけで、このNarvik周辺からノルウェー・スウェーデン国境にスキーリゾートのRiksgransenにかけて100近い山スキールートがある。

私はまだそのごくわずかだけを滑ったにすぎない。冒頭で述べたように、そのいくつかを数回に分けて紹介したい。今回は以下の四つを紹介する。日付は登頂日。記録欄の=はレンタカー、++はフェリー、>>はシール登行、〜〜は滑降、・・・は歩行(スキーを担ぐ等)、**はアイゼン使用(スキーを担ぐ等)を示す。

1 Storsteinsfjellet・・・・・・・1893m/2005.4.29〜5.02

2 Storsteinsfjellet北峰・・・1717m/2006.5.04〜5.06

3 Rundkollen・・・・・・・・・・・1019m/2005.5.07

4 Skavneskollen・・・・・・・・1196m/2006.5.01

(1)Storsteinsfjellet 1893m <図2、図3><Photo1-8>

この山はこのNarvik山域の最高峰であり、その裾野には多くの氷河を抱え、その中でもStorsteins氷河(図3のt)はノルウェー北極圏有数の氷河である。また、この山は、図3に示すように、主峰1893m(図2、図3の1)のほか、南峰1872m(図3のx)、北東峰1707m(図3のy)、北峰1717m(図2、図3の2)等の六つのピークからなり、それらのピークをめぐり様々な山スキールートが考えられる。

私たちはこの山に2005年5月、2006年5月と二度登った。

2005年5月は、ナルビクのスキー場もまだ60〜100cmと十分な積雪のある年だった。

出発前日、いろいろメールで情報を頂いた地元山岳会のNさんに直接お会いして、この山の情報を頂くとともに、山岳会管理の山小屋利用の許可と鍵を頂いた。

2005年5月は、山小屋利用が主なため、初めて、レンタカーを使わずにタクシーを使った。が、これはあとでも述べるがあまりいい判断ではなかった。

◆2005/4/29、NarviK→Fjellbu→Lossihytta

朝、予約しておいたタクシーに乗る。Narvik周辺はどこを走ってもすばらしい景色である。とくにこのSkjomen fjord(図2のe)は絶景である。この日は好天のなかタクシードライバーの絶景観光案内を聞きながら登山口に向かう。

登山口のFjellbu(図2、図3のf)から先の林道はゲートが閉まっていたため、ここでタクシーを降りる。降りるとき予め下山日の迎えを頼んでおいた。

この日は午前中は風が強かったが午後はそれも弱まり快適な天気。Fjellbuからの林道は雪がなくすべてを担いでの歩きは重荷に耐えかねてスピードはかなり遅い。林道はNorddalen(Nordelva川)の左岸を行く。気が遠くなりそうだったが15分ほど歩くと雪がでてきて(図3のm)スキーをはくことができた。スキーと兼用靴をはくと背中の荷物はだいぶ軽くなりほっとする。進むに連れてまずStorsteinsfjellet南峰(1872m、図3のx)の肩のピーク(1626m、図3のs)が見えて、そして、南峰が見えてくる。Fjellbuから5時間、今回の宿、対岸の高台にある小屋(Lossihytta、図2、図3のg)を望む丘で大休止する。ここからNordelva川の徒渉点Stasjoush(図3のr)に滑り下る。広くて大きな川原だが完全に川は雪の下。この川原から小屋(Lossihytta、図2、図3のg)までの登り返しがつらかった。

図3


頂いた鍵で小屋を開けて入る。無人小屋だがさすがに山岳会管理だけあり大変きれい。この周辺、概ね歩きで6〜8時間毎にこの小屋のような無人小屋がいくつも完備され夏も冬もこれらを巡って山歩き山スキーができる。小屋はいずれも地元山岳会管理で通常鍵がかかっている。このため、小屋利用の場合は予め地元山岳会に許可と鍵を頂く必要がある。どの小屋もベッド、寝具、食器、燃料が完備されている。コンロの使用は禁止となっている。小屋を利用するときは、前述した地元山岳会に許可と鍵のほかに、小屋備え付けの宿泊記録帳への記載とカード支払票の提出が義務づけられている。カード支払票には自分のクレジットカードの番号を書き込み、これを小屋の中にある鍵のかかった箱に入れる。後日引き落としがある。一人一泊200NOK(4000円)である。市内のホテルが安くてもツイン一泊素泊600NOKなので、まあ、こんなものかなあという価格ではあるが日本と比べるとかなり高価。

着くとすぐに布団干しをした。宿泊記録帳によると昨日まで泊まっていた人がいたようで、妻がおじさん臭がすると、一生懸命干し始めた。私は水用の雪とりである。トイレ棟とゴミ箱棟が別にあり、それらからもっとも遠い方角に雪をとりに行った。小屋の窓から望む景色は本当にすばらしいものだった。ちなみに、夜は11時近くまで明るい。

記録:2005年4月29日、晴れ
Narvik800(Taxi、800NOK)910Fjellbu(100m)930・・・945標高220m点(図3のm)1000>>1400 標高580m点(Lossihyttaを望む丘、図3のq)1430〜〜1440 Stasjoush1450>>1550 Lossihytta

◆2005/4/30、Lossihytta→Storsteins氷河→Lossihytta

今日はこんなに長く大変な日になるとは出発前はまったく予想していなかった。

快晴だった。

まだ肌を突き刺すような寒さの中、かなり堅い雪面を蹴るようにして東に向かう。途中、スノーモービルの轍がわずらわしい。今日はStorsteinsfjellet南峰(1872m、図3のx)の肩のピーク(1626m、図3のs)のそのまた南の肩を回って、そこからStorsteins氷河(図3のt)に下るつもりだ。

おとといNarvik市内で購入した山スキールート図集も参考にするが、結局、1:50000地形図から自分で考えたルートで行くことにする。快晴のため放射冷却でカチカチとなった斜面をスキーアイゼンを利かせながらぐいぐい登り、前述の南の肩にたどりつく。地形図によれば、ここから氷河にすんなりと入れる予定だった。が、氷河はかなり下。地球温暖化の影響か地形図よりも明らかに氷河が後退していた。仕方なく、30度はあろうかというカチカチの斜面をヒヤヒヤしながら氷河に向かって斜滑降する。なんとか氷河面に到達(図3のu)。帰りは来た道を戻るつもりだったが、この急斜面をトラバースしながら斜登行するのは容易ではないなあ、と、だけ、このときは思った。

氷河の中央部はいつもポワーんとしていてまことに気持ちが良い。純白の大雪面、周囲ももちろん純白。いつまでもボッーとしていたいところだが、行動食を食べて、すぐ出発する。ここからは、快晴のもと、氷河をどんどんつめるだけ。斜度も緩い。気温の上昇ととみに雪面も緩む。確実に山頂に行けると思った。が、甘かった。さっきまで快晴だったのに、あっという間に雲が広がり始める。気がついたらホワイトアウト。高度計で1800mを示したところで諦める。

氷河の滑降は実に快適。大斜面をパラレルターンでぶっとばす。標高1600m付近からは雲の下になり視界も広がりとても愉快なダウンヒル。現地山岳会への問合せ等からこの氷河にはこの時期ヒドンクレパスは無いとのこと。あっという間に1626mピークの南の肩から斜滑降で下った地点(図3のu)に戻る。

さて、ここからどうするか?しばし悩んだが、急斜面のトラバースはかなり難儀しそう。それに、氷河の快適なダウンヒル、この誘惑には勝てない。結局、このまま氷河を滑り、氷河末端から林道経由で小屋に戻ることにした。この判断が大間違いだったことは後で思い知るのだが。

氷河末端までは快適な滑降だった。空模様も曇り空になったが薄日もさし、これ以上の悪化はなさそうだった。氷河末端(図3のv)は地形図より後退していた。1100m付近が末端のようで、100mほど後退していた。氷河末端部は教科書どおりモレーンや迷子石があり、それを縫うように滑らなければならずルート取りに苦労する。また、気温が上昇してきて雪がグサグサになり、これも結構辛い。なんとか、氷河末端からそのまま広い谷を下ったところにある発電所(図3のw)に辿り着く。もうすでに結構ヘロヘロ。

ここで小休止したのち、あとは林道を直滑降、ラクチン、ラクチンと思っていたら大間違い。雪がグサグサで全然滑らない上に所々、雪が無い。

難行苦行の末、発電所から3時間かけて、やっとこさ、小屋に登り返す徒渉点(Stasjoush)に到着。相当へばってる。夜はまだまだ。ここは北極圏。この時期、暗くなるのは23時すぎ。体力さえあればいつまでも行動できる。さて、徒渉点から小屋までの登り返し、標高差170mが非常に辛かった。

結局、13時間に及ぶロングツアーとなってしまった。このあと胸が非常に痛み二日間この小屋で寝込むことになった。原因はこの二ヶ月後の健康診断で知る。不整脈がでていて、急性の心臓麻痺だったようだ。クワバラクワバラ。

記録:2005年4月30日、晴のち曇
Lossihytta(720m)700>>南の肩(1430m)1120〜〜1145Storsteins氷河標高1400m付近1210>>1355同氷河標高1800m付近1410〜〜同氷河標高1400m付近1425〜〜同氷河末端(1080m)1450〜〜Cunovuopmiの発電所(690m)1530〜〜Stasjoush徒渉点(530m)1830>>1950Lossihytta(720m)

◆2005/5/02、Lossihytta→Fjellbu→Narvik

二日間寝込んでしまったが、幸いなことに、とても快適な小屋のおかげでなんとか下山できるくらいに回復した。まあ、一泊200NOK(4000円)だから相応かもしれない。この小屋は電気がきているので暖房もコンロもすべて電気。ベットもマットも布団もカンペキ。昼間、素晴らしい景色を見ながら布団を干す。幸か不幸か3日間誰も来なかった。食器類も完全に揃っている。無いのは水回りとシャワーと食糧だけ。水は毎日、雪を溶かす。食器洗いも溶かした水。水だけは大変貴重だった。とはいえ、この景色で、幕営なしにこれだけの設備の小屋が使えるのはさすがにノルウェーらしい。日本と違うのは、どの小屋もしっかり鍵が掛かっていて、地元山岳会の許可+鍵を借りないと使えないことかな(それと無人小屋の割りには高価、今回は二人で3泊したので合計1200NOK(24000円))。

ノルウェーの山々には、このような山小屋がたくさんあり、多くの人達が、春夏秋冬、食糧を担いで山を巡っている。もちろん、雪の季節は山スキー。すごいです。

午前8時、素晴らしい景色と山小屋を惜しみつつ下ることにする。早朝、雪面も固くおかげで緩い林道もガンガン滑り、アッという間に登山口まで下った。

記録:2005年5月02日、晴のち曇
Lossihytta(720m)820〜〜835Stasjoush徒渉点(530m)845>>900山小屋を望む丘910〜〜1040雪が消える(295m)1055・・・1110Fjellbu(100m)1230(Taxi、850NOK)1310Narvik

PS:Taxi代は往復で1650NOK、この2005年5月は後半レンタカーにしたが、4日間で1200NOK、やはり、人件費が高いノルウェーではレンタカーの方が得だ。

写真1:Storsteins氷河から望むStorsteinsfjellet、写真2:Lossihytta


写真:Lossihytta入口、写真4:Lossihytta内部


写真5:Storsteins氷河から望むStorsteinsfjellet、写真6:Storsteins氷河


写真7:Lossihyttaから望むNihkevarri(1788m、図3のas)、写真8:同左


(2)Storsteinsfjellet北峰 1717m <図2、図3><Photo9-15>

◆2006/5/04、NarviK→Fjellbu→Lossihytta

2005年5月連休に引き続き、2006年も、ここNarvikに来た。2006年(5月連休のNarvik)は天候に恵まれ、今までになく、多くの山に登れた。そこで、この日、少々悩んだ末に2005年のリベンジをした。

この日は当初、日帰りでNarvikから南西に80km、Tys-fjordにある1000m超の岩壁で有名なStetind山(図2のh)(図2の赤い点線の道はすでに開通してます)に行くつもりだった。山スキーはこの山の2nd-Peakを狙う(主峰は岩登りの領域)つもりだった。

早朝、天気も上々だったが、今日夕方雨が降るかも、という天気予報がちょっとひっかかる。朝6時、クルマ(レンタカー)を走らすと、確かに、Narvikは快晴なのだが南西方向に怪しい雲が。Narvikから南西に40km、Ballangen(図2のj)まで来るとそれがはっきりしてくる。明らかにStetindは雲の下である。熟考したのち回れ右する。

まあ、冒頭述べたように結局昨年のリベンジである。それともう一つ。2006年は氷河を一つも滑っていないのも心に引っかかっていた。やはりノルウェーの山にあって日本に無いのは氷河である。

というわけで一旦Narvikに戻り荷物を詰め直して昨年行ったLossihytta(図2、図3のg)に向かって再出発した。

気持ちがとてもウキウキしてきた。昨年、Taxiで走った道をドライブして登山口に着く。昨年は閉まっていたゲートが開いていた。5月1日にオープンするのか、雪が少ないせいで開いているのかは判らないがラッキーである。昨年はスキーを担いだ道を、また、シールを付け歩いたところを、クルマで行き標高330m点まで来る。除雪車が作業しているのが見えたので諦めて、ここにクルマを置く(図3のn)。それでも去年よりはかなりラクである。徒渉点までの1/3は来ている。逆に雪はかなり少ない。

スキーと兼用靴を担いで歩き出す。除雪車の運転手にゲートはOPENのままか聞いてみる。OPENしたままとのこと、クルマも駐車したままでいいとのこと。安心して進む。標高390m付近(図3のp)で兼用靴を履き板とシールを付ける。いつものことだがかなり軽くなりラクチンラクチン。しばらく行くと一年ぶりにStorsteinsfjellet南峰(1872m、図3のx)が見えてくる。そしてLossihytta(図2、図3のg)が見えてくる。何となく懐かしい気分、戻ってきた気分になる。この道はこれからも何度も来るような気がする。徒渉点Stasjoush(図3のr)が見えてくるが心配していた通りNordelva川は開いていた。昨年渡ったところは渡れず、地図に夏道のマークのある岩礁帯のところで渡る。ちなみに地図には橋の記載があるが橋はどこにも無い。冬は尾瀬同様、橋を外すのだろうか?シールもスキーも外すことなく対岸に渡って一休み。雲行きがだいぶ怪しい(想定内)。一休みしたあとは最後のアルバイトである。昨年と違い雪を拾いながらの登行となったが、幸い小屋に近づくに連れ一面大雪面となった。途中から小雨となったがすぐ小屋(Lossihytta、図2、図3のg)に着いた。
昨年より備品が増えてる。勝手知ったる山小屋ライフ、妻と手分けして飲料用の雪集め、ヌレモノ干し、暖炉の火入れなどを段取りよく済ませ、今回は入口から一番遠い部屋に入る。深夜、スウェーデン人3人娘がやってきたことを翌朝知る。妻は慌てて起きて食堂においていた私達の食器は片付けたそうだ。

記録:2006年5月4日、晴のち曇一時雨、夜は晴
Narvik605=Ballangen645=720Narvik830=Fjellbu(100m)930=945駐車(330m)1000・・・1020板付ける(390m)1040>>山小屋を望む丘(585m)1300〜〜1405Stasjoush徒渉点(530m)1410>>1500Lossihytta(720m)

◆2006/5/05、Lossihytta-Storsteins西氷河-Storsteinsfjellet北峰(1717m)往復

この日は私の会心の山スキーの一つ。天候、体調、スケジュールそして最高のルートファインディング、すべて揃い、難しい山を狙ったとおりに登れた。しかも、最高のダウンヒルが楽しめた。最高の一日だった。

この日登った山はStorsteinsfjelletの六つある峰の一つ。最高峰ではないが、Lossihyttaからほぼ直接氷河をつめて山頂に到達できるため、氷河を滑る、山頂を狙える、往復同一(より安全)のすべて満足できる。難点は氷河の源頭から山頂がどうなっているか?これは行ってみないと判らない。氷河源頭のカール壁に懸垂氷河が垂れてるようだとつらい。

早朝、スウェーデン三人娘を起こさないように、静かに朝食を食べて、仕度を始める。快晴のなか、シールを付けて登り始める。少々固いがスキーアイゼンは付けずに進む。小屋の背後の丘、Loasenjunni(図3のz)は1050mのピークと1099mのピークの間の回廊を行くべきだったが、一本、左の筋に入ってしまう。尾根を一つ乗っ越して、前述した1099mのピークの尾根に上がり、狙ってる氷河(Storsteins西氷河、図3のaa)が下る谷(Moskkucoali)に降りる。

谷の標高945m付近(図3のab)に降り、ここから、氷河に向けてゆっくり登る。概ね地図とおり1100m付近で氷河となる。氷河の手前で一休みした。今年は蜂蜜とナッツの行動食が効果的でほとんどへばらない。一休みしたあと本格的に氷河上の登行となる。といっても、この辺の氷河は静かでたおやかで緩やかでどこでも登れる。標高1445m、氷河源頭部カールは凹地になっていた。地図にマークのある、カール壁の懸垂氷河は消滅していて無い。ここでは地球温暖化が幸いした。

快晴無風、時間も未だ正午、40度はありそうな急傾斜だが、アイゼン付けてスキーを引いて登ることにする。妻は、今日は私がはっきりと行くと云ったので覚悟してついてきた。雪はほどよい軟らかさでしっかり足型がつく。固くもなくグサグサでも無い。カール壁中央東サイドに雪が途切れ露頭が出ているところがありそこを狙って登る。カール壁標高差150mを登りきると北峰1717mが見えた。カール壁の上はもう緩く広い尾根なので怖くない。北側の氷河も傾斜が緩く、滑落する可能性も無い。ゆっくりとスキーを引きつつ登る。

午後1時、Storsteinsfjellet北峰(1717m、図2、図3の2)に着く。山頂にはケルンが積まれていた。初めて北極圏内1500m以上のピークに到達できた。山頂からはNarvikの街も望める。素晴らしい大展望である。大々満足であった。山頂は快晴無風、素晴らしいの一語。かつ、これから、期待の大ダウンヒル。山頂の北側と西側はすっぱりと切れ落ちている。

山頂で慎重に板をつける。山頂から東斜面をまず大回りする。雪質は少々ウインドクラスト気味。慎重にカール壁上端東サイドに滑りこむ。ここからカール底を見ると足がすくむ。よく見ると、カール壁中央部から西サイド下方に向かってやや斜度が緩くなった段状部分があるのに気付く。そこで、まず、その段状部分に向って、右斜滑降で入る。かなりの急傾斜、滑落と雪崩を怖れながらも思いっきり大斜滑降に興じる。妻も無事続いてきたのを確認し、次に、右下方に向けて、やや斜度の緩くなった段状部分をギルランデで高度を落とし、一旦、右回りしたあと、左へ斜滑降する。そのあと、カール底に向かってウェーデルンで下った。妻も度胸よくついてきた。カール底で小休止。

これからが今日のハイライトである。Storsteins西氷河の大ダウンヒルである。実に気持ちよく滑る。至福のときである。でもその至福はあっという間。登り返し部に到着。
ここで大休止。遠くの山を一望する。次は向こうの山に行きたいと思う。肌がジリジリと焼けるように熱い。5月しかも北極圏の紫外線は強い。日焼け止めを塗り直す。熱さにめげながらもLoasenjunni1045mのピークまで登り返し、あとはかなりグサグサになってきた雪をダウンヒルして小屋に戻る。

小屋では、かのスウェーデン娘たちがひなたぼっこをしていた。板が3台たてかけてあった。ビンディングは3台ともディアミール。我々も板を抜いでたてかける。都合、5台ともディアミール。ノルウェーの北のはての山小屋、しかも、日本人とスウェーデン人、山スキーのビィンディングが全部ディアミールとは、ちょっとびっくりだった。

リーダー格の女性は仕事で時々鹿児島に行くとのこと。九州新幹線はきれいで速くて素晴らしいと。それから、こんな北のはての山まで、わざわざ日本から、と、あきれられた。この夜、深夜(といっても明るい)、彼女らの仲間が来るのだが、徒渉点がわからず、助けにでかけた。北欧の5月は日が長く、午後12時でも動いてる人がいる。

記録:2006年5月05日、快晴
Lossihytta(720m)730>>Loasenjunni(1045m)850〜〜Moskkucoalli(945m)910>>1000Storsteins西氷河末端(1100m)1010>>1150同氷河源頭部カール(1445m)1210**1300Storsteinsfjellet北峰(1717m)1335>>1350Storsteins西氷河源頭部カール1400〜〜同氷河末端1420〜〜1430 Moskkucoalli(995m)1450>>1520Loasenjunni(1045m)1545〜〜1620Lossihytta

◆2006/5/06、Lossihytta→Fjellbu→Narvik

 昨夜、スウェーデン人娘の仲間が結局、渡渉できず、来れなかったので、行きに通った渡渉点がもう割れたのかなと、かなり危惧したが杞憂だった。たしかに、一昨日よりは、水流が出てるところが増えていたが、まだ十分、スキーで渡れる。昨日、スノーモービルが渡った跡さえあった。スウェーデン人たちはどこを探していたのだろうか??

とにかく、そこをスキーを外さずに渡った。渡ったあとシール登行で林道まで直登し、林道をしばらく行き小屋が見えなくなるあたりでシールを外す。あとは林道大滑降。車が見えるようになり、一昨日、スキーをつけたところで、板を外し担ぐ。しばらく歩くと車に到着。

帰りは、Skjomen fjord (図2のe)の絶景を堪能。去年はタクシーだったので、車窓から見るだけだったが、今日はレンタカー。絶景ポイントで車を止めて、撮る。とくにFjord中間の小さな灯台(図2のk)からの景色は素晴らしい。今日は土曜日のため、サイクリングをする人が多い。結構アップダウンがあるのだがスイスイと走っていく。ノルウェーは山スキーといい、このサイクリングといい、本当にアウトサイダーの多い国である。夜、ノルウェー人友人のご自宅に招かれすばらしい景色をみながらバーベキューに舌鼓を打った(日が暮れるのは午後11時すぎ、ディナーパーティーも太陽の下、すこし違和感がある)。

記録:2006年5月06日、快晴
Lossihytta(720m)800〜〜810Stasjoush徒渉点(530m)815>>900山小屋を望む丘(585m)910〜〜1020雪が消える(390m)1040・・・1110駐車(330m)1155=Fjellbu(100m)1210=(途中寄り道多数)=1330Narvik

写真9:Storsteins西氷河、写真10:Storsteins西氷河源頭


写真11:Storsteinsfjellet北峰山頂から北を望む、写真12:Storsteinsfjellet北峰山頂から南を望む


写真13:Storsteinsfjellet南峰、写真14:カール壁を直登する


写真15:氷河を滑る


(3)Rundkollen 1019m <図2、図4><Photo17-21>

2005年5月連休後半は、Lavangen村のLapphaugen(図2のac)にあるHelarshytterというキャンプ場のキッチン付キャビンに3泊した。

前日夕方、キャビンの窓から、Melkefjellet山(図2のad)に、きれいなテレマークのシュプールがあるのに気付いた。妻は、それを見て、ぜひ、このMelkefjelletに行きたいと云った。が、私には、どうも、上部の急斜面が怪しげに感じられた。また、この年(2005年のノルウェー山スキー行)は、この時点で一つも山頂を踏んでいない。山スキーにとって必ずしもピークハントが最終目的とは思わないが、やはり一つぐらいは山頂を踏みたい。今日は、できれば、山頂を狙えそうな山がいい。

そこで、前日のロケハンでみつけたRundkollen(図2、図4の3)に行くことにした。Saloy(図2、図4のae)から望むこの山はゆるやかな尾をフィヨルドに落とすように引いた女性的山容だが、反対のSalangen(図2、図4のaf)から望む形はフィヨルドから1000mも屹立する岩壁をみせる男性的山容である。このようなコントラストを持つ山はこの地域では珍しくない。

図4


峠をSaloyからSalangenに越えたあたりでクルマがとめられる場所があり、そこを登山口とした(Sorli、図4のag)。標高200mだがまだ周囲は完全に雪に埋まっている。好天の中、疎林と草原が交互に層状段上に繰り返す中を登っていく。まだ、朝早いので雪面は固い。500m付近で森林限界となる。少し休む。ここからは、広い尾根、広い無立木の純白の大斜面。こういう広いところは急ってはいけない。はやる気持ちをおさえながら登る。斜度は15度くらい。登るに連れて視界が広がる。青いフィヨルド、春の芽吹きが眩しいノルウェーの森、そして純白の山々、そのコントラストが素晴らしい。2時間ほどがんばると山頂台地(Rundkollen、図2、図4の3)に上がる。

この山頂台地は広くて長い。台地の端まで行くと、遠く大西洋(ノルウェー海)まで望める。絶景である。屹立した島々を織り成すフィヨルド、屹立した純白の峰々が重なり合うように青い海に浮かぶようにも見えて、その様は、いままで山頂で見た景色でもっとも素晴らしいものかもしれない。フィヨルド、海、森、氷河、雪、青緑白の際立ったコントラスト。見事である。

ここから、やや下って、さらに、海に跳び出すような標高982mの舳先(Lifjellet、図4のah)に行ってみる。フィヨルドから屹立して標高差1000mの大岩壁に突き出た舳先からの景色はほんとに筆舌に尽くし難い。よく見ると岩壁から雪屁が20m近くも突き出ていて、真冬の大西洋(ノルウェー海)からふきつける猛吹雪を想像してぞっとする。
下りはフィヨルドに飛び込むようなグランドスラローム。雪質もほどよいザラメ。すばらしい景色を惜しみつつも板はどんどん滑って行く。さすがに、樹林帯に入ると陽も高くなったせいか、ジュクジュクの湿雪、湿雪をあがきつつクルマに戻る。帰りはSalangen(図2、図4のaf)から大岩壁を仰いでから宿に戻った。

記録:2005年5月7日、快晴
Lapphaugen710=750Lavangeidet-Sorli(195m)(駐車)810>>940(標高510m点)1000>>1210RundKollen(Gielasvarri)(1019m)1235〜〜1250Lifjellet(982m)1310>>1330RundKollen1350〜〜1445Lavangeidet-Sorli(195m)(駐車)1515=1540Salangen1600=1735Narvik

(4)Skavneskollen 1196m <図2、図4><Photo16,17,22>

前日のロケハンで、昨年(2005年)登った(とても良かった)Rundkollen(図2、図4の3)の登山口には未だ雪が付いていたのを確認していた。そこで、Rundkollenの隣のSkavneskollen(図2、図4の4)に登ることにした。登山口のSorli(図4のag)は昨年よりは雪が少ないが十分に山スキー可能な積雪だ。標高400m(図4のak)までは昨年と同じルートをたどった。そこから先はトラバースして、Gielas(500m、図4のam)付近からGamvikelva(図4のan)に下る。ここまで2時間かかった(約5km)。Gamvikelvaは、RundkollenとSkavneskollenの間の広い沢である。この沢の標高455m付近に山小屋(Swinsbu小屋、図4のap)があった。ノルウェーの山小屋は通常錠がかかっており、事前に所有(管理)する山岳会に利用申し込みをして鍵を借りなければいけない。この山小屋の存在自体、事前には不明だったので、当然、今日は鍵がなく入れない。今後のことも考えて管理者名を探したが残念ながら不明だった。陽が高くなり、沢の底はとにかく暑い(快晴)。とにかく、このままがんばれば山頂に着けると思い、沢を登り、RundkollenからSkavneskollenに辿る稜線のコルに出た。

コルに近づくにつれ、無風から次第に風がでてくる。コル(Gamrikkardet、図4のaq)に立つものすごい風。立ってるのもやっと。快晴なのだが、大西洋側のフィヨルドも白波が立っている。この暴風のため稜線上は雪面もガチガチ。ちょっとこの風では、ここから標高差400mはつらそうだ。

結局、今日はこのコルであきらめることにした。また、次回の宿題というところ。

下りはスイスイであった。小屋のそばでゆっくり休む。小屋からシールを付けて標高600mくらいまで (図4のar)登り返し、そこから、昨年のRundkollenからのルートで下った。

記録:2006年5月01日、快晴
Narvik610=745Sorli(200m)810>>1005Gielas(500m)1015〜〜Gamvikelva(430m)1025>>Swinsbu小屋(455m)1035>>1240Gamvikskardet(782m)1320〜〜1350Swinsbu小屋1420>>1520Gielas(600m)1530〜〜1630Sorli(200m)1650=1815Narvik

写真16:Swinsbu小屋、写真17:Saloyから望む


写真18:図4のar付近から北方を望む、写真19:Rundkollenから大西洋(ノルウェー海)方向を望む


写真20:Rundkoen山頂付近の絶壁、写真:21:Rundkollenから滑る


写真22:Saloyから望むSkavneskollen


岩 記


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