Last Update : 2010/08/26  戻る

厳冬の浅草岳(只見入叶津から浅草岳)

2006.2.18-19

メンバー:岩 毅(単独)

筆不精がたたってノルウェー以外にもかなりの未報告山スキー行がたまってしまった。春花が生まれて少々山に行く回数が減らさざるを得ず、この機会にぼちぼち遅ればせながらご報告したい。

1995年3月26日に手塚さん、山村さん(残念なことにお二人ともすでに退会)と、只見側から浅草岳をトライして、入広瀬側とはまったく異なった表情をみせる浅草岳に魅了された。このときは、天候の悪化とタイムアップで、中途退却をよぎなくされた。それがいつまでも頭にひっかかっており、無謀にも、大雪の2006年厳冬2月に単独で再トライをした。

結果的には、私の、会心の山スキーのひとつになった。

この日は、当初、秋田森吉山に行くつもりだったが、天気予報では、秋田・岩手以北の北日本は前線通過でしぐれ気味とのこと。一方、新潟・福島・関東は土日とも好天とのこと。そこで前述したように兼ねて気になっていた、只見からの浅草岳再トライを実行することにした。

18日11時の予報でも晴れることを確認して、習志野の自宅を出発した。1995年3月26日は日帰りで狙ったがタイムアップしてしまったので、今回は、テントを担ぎ18日中に行けるところまで行くことにした。妻は仕事で同行できなかったので、テントは、新調した一人用最軽量テント、シュラフも、同じく新調した最軽量ダウンシュラフを持ち、軽量化を図った。

自宅を11時に出て、東北道を那須塩原で降り、尾頭トンネルを通り、会津高原駅前、南郷経由で只見に向かった。途中、前日までの大雪のため、南郷・只見間で除雪待ちがあり、結局、登山口の只見町入叶津集落はずれの国道289号除雪終点に着いたのは16時半だった。天気は曇り。出発は17時と相当遅いが、それでも、前述したとおり、行けるところまで行くことにして出発した。

国道289号八十里越沿いに進む。除雪終点から500mで早速デブリ帯に出くわす。大雪で山、道路、叶津川が狭ってるあたり、幅100m程度のデブリを乗り越える。この年は、雪が多いため、こういうところも怖い。スノーシェッドが3箇所あったがその前後もヒヤヒヤ。標高505m付近除雪終点から国道沿いに5.2kmほど行ったところで幕営する。ラッセルはくるぶし以下でたいしたことがなかったのが幸いした。空には満点の星が見えはじめ、予報どおり明日の好天が期待された。

さすがに夜半から厳しい冷え込みとなり寒くてしょうがなく、なかなか熟睡とはいかなかった。帰宅してから気象庁HPでチェックしたら19日朝の只見町の気温はマイナス8.3℃。ということは幕営地はマイナス10℃以下だったのか?確かに寒いわけだ。それでも朝気づくともう6時、結構、寝たのかも。テントを撤収し、山に行くのに不要なものはテントマットにくるみ雪中深く埋めてデポする。ゴミは本来動物が掘り返すおそれがあるので離して埋めるべきだったがそれは忘れてしまい、あとで少々心配になる。徹底的に軽量化を図り快晴のもとテン場をあとにする。

出発して電信柱2本目、標高510m付近、ゆるく国道が右にカーブを切るところから、沢沿いに左へ登る。昔、ルートブックにかかれていた電信柱#87の番号札は無かった。しばらく登ると大三本沢が真下に見えてくる。左の斜面に林道形状が残っているので、この道形に沿って登る。標高590mにある沼は完全に真っ白、雪の下。ラッセルはくるぶし程度でたいしたことはない。沼の左上、左斜面上を道形は続く。沼の南東部側は少々急なトラバース気味になっており、ナダレに注意して進む。標高610m付近でこの道形から外れて真南に登る。高度差30m、等高線3本分登ると、ブナの森の台地に上がる。台地をゆるゆると南行すると、小三本沢のガケに出て、西前方に猿崖が見えてくる。標高700m付近、2万5千分の1地形図のガケマークの上を行く。地形図の「小三本沢」の「三」の字のあるところの草付のやや急な斜面をトラバースして、標高720m付近、ブナの森、夏道のあわさったあたり(もちろん夏道は雪の下なので地形図上での話)から沢に下る。

沢は完全に雪の中。しばらく、沢中雪原(ここは広い雪原状態)を行く。ちょっと小さいノドをくぐってから、左岸の尾根の切れ目をめざして登る。ちょっと行くと沼の点在する気持ち良いブナの森に入る。標高740m付近、ちょっと高台にて最初の休憩をとる。周囲はキツツキのドラミングやら小鳥のさえずりで結構にぎやか。蜂蜜をチューブからガブ飲みし、ニンニクチューブも飲んで(単独行だからできる)から、紅茶を飲む。今日は、500ccテルモスに砂糖入り紅茶と、1Lペットのスポーツ飲料を携行する。天気は快晴で肌が焼けるのを感じるが、まだ2月、日焼け止めは塗らなかった。昨日、只見で買った胡桃ゆべしを二つ食べてから出発する。

標高730m付近の地形図の湿地マークのところは、ちょっとした池が二つ凍らずに顔を出していた。休憩した高台から気を付けて下りないとハマる。池と池の間を進んで沢に下りる。標高720m付近、小三本沢は完全に埋まっている。ここから、沢に中を両側からのナダレに注意しながら標高786mの安沢分岐(安沢と小三本沢の出合)まで行く。安沢分岐は1995年3月は大きなデブリがあったが、この日はまだ綺麗?だった。

先週から今週にかけての1週間で、只見の積雪は、285cmから235cmに一週間で50cmも減っており、すなわち、雪がかなり締まってきており(このためラッセルも浅い)、かつ、今朝はかなり冷えたので、ナダレはおきにくいと判断して(危うい判断?!)、安沢を登ることにした。春のポカポカ陽気だとかなり危険だが、今日は、快晴だが、かなり寒い。安沢の真ん中を斜面に影響を与えないように慎重に登る。昨日から人影もシュプール跡も一切無い。ここで埋まったら、人の気配の一切無い只見の山の奥深く、即お陀仏である。慎重に慎重に進む。1995年は標高980m付近から左に登り上げたが、今日は、ヘタに斜面を切るとナダレがおきかねない。慎重に安沢を登り上げてから、猿崖の上から続く尾根の上にでる(標高1050m)。この尾根もブナの疎林で気持ち良い。このあたりから展望が明け出す。

東方に顕著な山塊を望む。御神楽岳だろうか?西方は浅草岳から北方に下る広い尾根。標高1150mの尾根の頭に出ると浅草岳山頂が見えた。しかし、これがとてもとても遠くに見えた。あまり遠くに見えたので心の中に弱気の虫がうごめき始める。とにかく安まずに行く。蜂蜜をガブ飲みして力をつける。ここからは緩い斜面を行くのみ。ここもブナ林。幸いラッセルは浅い。標高1180m付近から南行し、ブナの少し顕著な尾根を行く。標高1360m付近、森林限界をすぎると、斜面が硬くなってくる。スキーアイゼンをつける。弱気の虫と戦いつつ、また、帰路、道を見失わないように、跡をつけたり、後方の景色を確認しつつ登る。雪面はかなり硬くこまかい粒様を呈してくる。緩やかで広い広い斜面がどこまでも続き、茫洋としているため、目標を100m程度先の「潅木」におきつつ、一歩一歩進む。最後の目標を過ぎて、山頂のピークが見えてくる。弱気の虫もおさまり、山頂につけると確信する。

頂上につくと三角点にタッチし、浅草岳国有林の看板の雪を払って携帯電話で写真を撮る。北から東に順に、御神楽岳、飯豊連峰、磐梯山、南会津の山々、尾瀬の山々、上越連峰と素晴らしい眺めである。北方には新潟平野、弥彦山も望める。少しうすい雲が出てきたが、快晴無風、天気も最高、至福のときである。浅草岳山頂南面のヒマラヤひだに吸い込まれそうで少々怖いくらい。

13時頂上をあとにする。今日は下りも長い。硬い雪面はエッジがよく効いて滑り易い。方向は、登りにつけたマーキングを確認しながらも、基本的には、御神楽岳ないしは猿崖の上の台地を目指す。大斜面をパラレルターンで大滑降。実に気持ちがいい。樹林帯に入ると新雪滑降である。標高1180mまで山頂から15分。アッという間。ここで少休止したあと安沢に向けて滑降開始。安沢までは雪質良好だったが、安沢の中は午後になり、すでに悪雪、とくに沢の南側はグサグサ。斜面を切って不用意にナダレを誘発しないよう慎重に下る。ルートは往路を忠実に下る。安沢分岐はナダレが気持ち悪いのでここだけは登りのトレースを外れ左岸を高巻く。

小三本沢の標高720m付近からアップダウンがしばらく続くのでシールを付ける。今朝はにぎやかだった森も午後になると木洩れ陽だけで静寂が支配している。往きのトレース沿いに進み、地形図の「小三本沢」の「三」の字のあるところの草付のやや急な斜面をトラバースし終えたところでシールを外す。

ここからは少しザラメ気味の滑り易い雪質だった。どこでも滑れるカンジ。ブナの森のツリーランを楽しむ。アッという間に浅草岳と別れる場所となり、そして、テン場に着く。埋めておいた荷物とゴミを掘り起こし再パッキング。動物たちに寄るゴミ荒らしはなかったようだ。雪の国道を1kmほど滑ったあと、今日3度目のシール装着。スノーシェードをくぐったり、下巻きしたり、デブリを越えたりしつつ、無事、クルマに到着。もう16時をまわっていた。

「やった!」、という達成感がいっぱい。

そういえば、二日間誰にもあわず一人っきりの浅草岳だった。このあと5時間かけてクルマを走らせ22時妻の待つ自宅に無事帰り着く。

[記録]>>はシール装着登下行、〜〜はシールなし滑降

2006年2月18日(土)、曇、夜晴れ
入叶津1700(415m)1700>>1815国道標高505m付近(幕営)

2006年2月19日(日)、快晴、夕方曇
幕営点700>>855標高740m休憩点(幕営)915>>1100標高1150m点>>1240浅草岳山頂(1585.5m)1300〜〜1315標高1180m点1330〜〜1345小三本沢標高720m点1400>>1425「三」字トラバース(720m)1435〜〜1455幕営点1515〜〜1525国道標高450m点1535>>1615入叶津



岩 記


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