Last Update : 2009/05/06  戻る

宿願の朝日岳(蓮華温泉から朝日岳)    

2009.3.19-22
記:岩、菅澤
参加者:岩(L)、梅原(SL)、今村(食当)、菅澤、鈴木岳、加瀬

この記録は、菅澤さんと私(岩)の共同執筆記録です。

素晴らしい山スキーだった。私(岩)の30年あまりの山スキー人生の中でも十指に残る山行だった。宿願の朝日岳登頂、エピソードいっぱいの3日間、達成感、充実感、爽快感、心地よい疲労感、満足いっぱいの山スキーだった。
菅澤さんも、私も、朝日岳山スキー登頂は永年の夢。私は1982年の雪倉岳登頂以来何度も試みては失敗、とくに2003年は山頂下200mまで達しながらタイムアウトで断念(申し訳ありません、未報告です)、今回、ついに登頂した。宿願を達成した満足感と、ちょっとだけ寂しさも。新たな宿題探し、かな。

19日深夜、ほんとに久しぶりに、新宿駅9番線から登山スタートとなる。最近はクルマか新幹線での出発だったので、夜行列車は、若い頃を思い出しちょっと新鮮な気持ちになる。
ホームに降り立ち1号車を探しウロウロしていると背後から私を呼ぶ声が。みなさん、すでに、待っていた。「ムーンライト信州81号」は短い5両編成。早速乗り込む。指定席を10名分とっていたが、乗車率も低く、さらに、ゆったりと座って行けた。ただ、寝台列車と違い、車内の照明も明るいままで、やはり熟睡とはいかなかった。

20日早朝、終点白馬に着く。予報どおり雨。栂池ゴンドラ駅は雨をしのぐところがなく(実は少しあった)、白馬からバスで行くと早く着きすぎるので白馬大池715発のバスを狙い、南小谷行の電車に乗り継ごうとしたが、乗る寸前一人欠けていることに気付き慌てて降りる。加瀬さんが、うまく時間をあわせてジャンボタクシーを呼んでくれて、丁度8時、ゴンドラ運行開始時間に栂池に着く。ゴンドラは動き出したが、その上のロープウェーは強風のため運行開始が15分ほど遅れたが、そのうちに雨が上がり、栂池自然園を着く頃には晴れてきた。
いつものように、ゴンドラ栂池自然駅で自然観察員のレクチャーを聴いたあと出発。天狗原への登りは暑いほどで後方には八方尾根、遠見尾根が望まれる。いくつかのパーティーが天狗原を目指すが、みなさん、白馬乗鞍に向かい、振子沢へは、我々がファーストトラックとなる。天狗原は晴れていたが、振子沢は深い霧の中。いつもはトレースに従い何も考えずに下っていたコース。かなり勝手が違い戸惑う。ルート探しと、背中の重荷(今回はテント山行の予定)と、軟雪・堅雪・悪雪のコンビでかなり難儀する。おまけに、沢筋が明瞭になりルートが見えラクになった、と思ったら、今度は、沢床が思いっきり割れている。何度も振子沢を滑ったがこんなの始めて。いつもの小尾根片斜面四つ越えもちょっと面倒だった。ただ、例の蓮華温泉手前のまことにおっかない橋は、欄干がでていて、全然怖くなかった。
蓮華温泉に着くも、みぞれまじりの雪と霧、少々悩んだが、この霧のルートファインディングは難行すると思い、白高地沢幕営は諦め、蓮華温泉に泊まることにした。結果的にはこの判断は大正解だった。13時すぎ、宿に入る。夜行電車での睡眠不足も、暖かい部屋での午睡と素晴らしい温泉で解消する。夕刻にかけて続々と山スキーヤーが到着してくる。夜未だ、外は雪が舞っていたが、ラジオの予報では、快晴とのこと。明日の好天に期待して19時には寝てしまう。

21日朝、予定どおり、私の携帯目覚ましで3時半に起床。こんな早い起床は学生時代以来かも。日帰り山行準備、朝食を済ませ、予定の4時台には気合を入れて出発する。下弦の月が山の端に昇ったが月明かりとまではならず、全員ヘッドランプを点けて滑り出す。私がトップを行くも、私のランプはいまいちで木に足をとられ転倒数度、GPSとLED光源が素晴らしい菅澤さんにトップを変わってもらう。菅澤さんのLED光源ランプは、明るいだけでなく遠距離まで光が届くので夜間滑降には非常に具合が良い。雪は堅いが昨日とは大違いの荷の軽さで(昨日は幕営一式担いでいたが、今日は、朝日岳ピストンのため日帰り装備のみ)快調に滑り、夏道の南の尾根をトラバース気味に滑り降りて樹林帯から兵馬の平に滑り込む。このころにはだいぶ明るくなる。難所のひとつ、兵馬の平から瀬戸川への急斜面は、雪は堅いが、横滑りも交え無事全員滑り終える。瀬戸川鉄橋では降り口・昇り口にいやらしく雪が付いていた(写真1)。2003年は雪が多く難なく渡れたが、今回は、なんとかルート工作しつつ、ちょっとしたエピソード?も発生したが、ほんとに幸運なことに、全員無事渡り終える。昨日あのまま重荷で白高地沢を目指していたら、かなりの困難が伴ったと思われる。
鉄橋を渡ったところでシールを付け標高差1,300mの朝日岳山頂を目指す。白高地沢までは複雑な地形で、一部GPSを確認しながら進む。霧が濃いだと難儀するかもしれない。最初、瀬戸川を右下に見ながら夏道沿いに細い尾根に上がる。池(ひょうたん池ではない)を右下に見ながら、細い尾根を進む。夏道が左の広い沢に入るあたりから、白高地沢右岸のやや広い尾根を登ると標高1360mの台地に上がる。台地をしばらく行くとひょうたん池があり、これを右下に見ながら前方右側の広い大雪原に降りる。ここが白高地沢。白高地沢は6年前は氷河のような一面の大雪原であったが、今年は中央部をとうとうと流れが出ている。夏道はここから五輪高原に上がる。雪橋を二つほど渡り、標高1380m付近の屈曲点で、やっと沢が雪に埋まる。このあたりは、6年前は、五輪高原側からのデブリがいっぱいで、また、雪崩も起きそうで五輪高原側を見ながら恐る恐る行ったものだが、今年はデブリもなく雪崩の気配も感じない。沢中央部をしばらく行くも、標高1500m付近で、小滝が出ていて、これは右岸を高巻く。高巻いたあとのトラバースで20mほどずり落ちたが、下は傾斜が落ちているので皆は笑いながら眺めている。折角無理してトラバースしたのが無駄になる。天気は申し分ない快晴で暖かく、下りの雪質が心配になってくるほどだ。
標高1700m付近、ここから、朝日岳に突き上げる大カールに入る。ここは6年前同様、ノルウェーの氷河にも劣らない大斜面であった(写真2)。ここからが今日の核心部である。このあたりからスキーアイゼンをつける。大斜面も各自思い思いに登る。斜面はやや堅い。はるか上部斜面に黒いものが動いている。「熊だ! かもしかだ!と騒ぐうち稜線に消えていった。このあたりから、鈴木岳さんが先頭を行ったが、カール状斜面をそのまま朝日岳に突き上げるか、それとも、いったん右方、夏道稜線に突き上げるか悩んでいたが、斜面が思ったより堅いので、結局、より斜度の低い稜線突き上げを選択した(鈴木さんだけスキーアイゼンなしだった)。稜線近くでかもしかの足跡が雪面に残っていた。
標高2250mの稜線に到着すると、尾根の反対側は眼下に富山平野と日本海が広がっている。小休止の後、鈴木岳、今村、岩は靴アイゼンで、菅澤、梅原、加瀬はそのままスキーアイゼンで山頂に向かう。風が強くクラストした雪面にアイゼンがよく効く。山頂直下50mほどのところからはウインドクラストのきついガリガリの斜面だったので、スキーアイゼン組も靴アイゼンに代える。岩以外は下りの安全も考慮してスキーをデポする。山頂は広い台地になっており、台地の西端に山頂モニュメントを見つけた。
午前11時40分宿願の朝日岳山頂に到着。快晴である。広い山頂はさえぎるものはなく剣岳・立山の右に遠く白山が望まれ、白馬から戸隠・高妻・乙妻、火打・焼山と360度の大展望だった。富山平野から富山湾も一望できる。風が強いので証拠写真を撮って(写真3)早々に下山開始。菅澤は山アイゼンを宿に置き忘れ慎重に降りるが、兼用靴のソールが氷になじむので滑らずにすんだ。
岩は山頂から滑降する。ほかのメンバーが靴なので慎重に下るが、皆がスキーをデポしたところより下は斜面が緩いので、それほど怖さはなかった。標高2300m付近、6年前に断念したあたりから、稜線を外し、大カールに飛び込む。純白の大斜面に、ファーストラックを刻む。ウインドクラスト気味で時折足をとられ、ときに、雪まみれになりながらも、大胆にシュプールを刻んでいく。背後から、仲間が華麗に絵を描いていく。振り返ると6本の曲線が重なり合いながら途切れることなく純白の大斜面に刻まれていく(写真4)。背後の真っ青な空がまぶしい。まさに山スキーの醍醐味を満喫する。山頂スタートが早かったおかげで標高2000m以下も雪質は上々。なんとも気持ち良い滑りである。宿願の山頂到達だけでなく、こんな最高のダウンヒルが待っていたとは!!標高1700m点から登りの高巻きを避けて、赤男山北東面ラインにトラバースして、そこから登り返すこともなく一気に白高地沢1350m点まで滑り降りる。山頂まで4時間30分かけて登った標高差1000mの斜面を30分で降りてしまう。白高地沢は、少し縦溝が出始めていたが雪質は心配していたほど悪くなく最後まで快適な滑りを堪能した。白高地沢で小休止。皆の見上げる顔に満足感が漂う。
小休止後、シールを付けひょうたん池の上まで登る。往復両方の新しいトレースがある。雪面に刻まれた深さから1時間以内のようだ。蓮華温泉からここ白高地沢までのスキーハイクで往復した模様。さては瀬戸川を先行して戻っているか?ちょっと期待する。ひようたん池の上でシールを外して、ちょっと重たい雪のツリーラン、今日最後のダウンヒルを楽しみ、瀬戸川鉄橋に到着。予想どおり先行者が無事渡ったあとを確認。ともかく渡ることにする。
岩がスコップで徹底的に鉄橋にかかる雪を片付け、無事全員渡る。ここで二人組が追いついてきたが、今日出逢った初めてのパーティーだった。彼らは五輪高原から五輪山に登ったとのこと。瀬戸川から兵馬の平への壁は緩んだ雪に助けられつつヒーフー云いながらシールで強引に登り上げる。天気は快晴のまま。達成感と心地良い疲労感に浸りながらゆっくりと兵馬の平を横断する。兵馬の平から蓮華温泉への登りは斜度を緩くとるため標高1360mの尾根末端から登るも、一日の最終行程の登り返しはちょっと長く感じられた。
ロッジに近づくと朝とは違いシュプールがいっぱい。雪倉から戻ったらしきトレース、白馬乗鞍から蓮華温泉にダイレクトダウンヒルしたらしきトレース、そして山スキーヤーもいっぱい。結構若い年齢層も見かける。皆思い思いに今日の素晴らしかった山スキー談義に花を咲かせている。我々も負けじと朝日岳をバックにしっかり記念写真。温泉にちょっとうるさい鈴木さんはそのまま野天風呂に行き、我々は部屋に戻って早速ビールで乾杯。満足感一杯の一日だった。
蓮華温泉ロッジは「日本秘湯を守る会」のプレートを掲げていて、温泉名は白馬岳の越中側呼称「蓮華岳」に由来するそうだ。内湯の泉質も良く、結局二日間で4回入浴してしまった。夕食ではワインで乾杯。食堂は満員で60名ほどの泊り客だったろうか。食堂の窓からは真っ白な雪倉岳の右に朝日岳が遠く見え、あんなところまで往復したのかと感慨に浸る。

22日朝は天気予報どおり朝から土砂降り。他のパーティーが続々と下山を開始する中、7時20分、ゆっくりと出発。トレースに従い、弥兵衛沢まで滑ったあと、シールを付けてヤッホー平から角小屋峠まで登る。菅澤さんはザックが雨水を吸って初日より重くなってしまいかなり難儀していた。宝くじが当って新調したという梅原さんのビンディングは何回か外れて苦労している。加瀬さんはストックリングの破損やシール剥れのトラブルで粘着テープが大活躍だ。角小屋峠はシートラーゲンで登る予定だったが、眺めてみるとシールでいけそうなので、菅澤さん、梅原さん、今村さん、鈴木岳さんは、そのままシール登行する。菅澤さんによると、20分ほどで登れてしまい、シールの調子が悪い加瀬さんと、付き合った私がシートラーゲンで峠に到着するまでの30分弱の間に天候はどんどん悪化しまともに立てないほどの暴風雨となってしまい、ツェルトを被るかと思案しているうちに二人が到着した、とのこと。
こんな雨での山スキーは過去に経験なし。とはいえ、すでに蓮華温泉に泊まっていた50人近くの人がここを下っており、トレースはしっかりしている。それを辿るだけである。角小屋峠の下り、いつもように、右側から下ろうとすると、下で懸命に左に行けとストックで指し示す人がいる。怪訝に思いながらもいつもとは違う左寄りを下る。下って振り返るとビックリ。右斜面半分は大きく割れて今にも全層雪崩が起きそうな模様。ここにも寡雪暖冬の影響が出ていた。
峠からしばらく下ると風雨も少し弱まってくる。途中、ウド平でタクシーを予約しようとしたが携帯がつながらず諦めかけたとき、後続パーティーのリーダーらしき人が声を掛けてくれて予約できたのはラッキーだった。雨は小降りとなったが、長い下りは楽しめる滑りとはほど遠く、林道に出てからも荒れていて気を使う。太ももが悲鳴を上げ始めたころ木地屋の除雪終了点に到着。道路わきでしばらく待つうちに予約時間より20分以上早くタクシーが来てくれ助かった。このあとまた雨が本降りとなってきたので、予約時間どおりだったら更にずぶ濡れになるところだった。またタクシーの予約ができなかったら本降りのなかを平岩まで5〜6kmも歩かなくてはならなかった。
ちなみに、タクシーの運転手によると、角小屋峠より下で3箇所程度携帯が通じるところがあるそうで、最近は、そこから携帯でタクシーを呼ぶのが、通常らしい。
南小谷で発車直前の列車に飛び乗り、松本に向かう。菅澤さんによると、松本で食べた駅蕎麦がとても美味に感じられた、とのこと。鈴木さんはここから青春18切符利用で高尾行きに乗り、我々は「スーパーあずさ22号」で帰京した。
今回の山行は登り・滑り・温泉・天候・困難さなどすべての点で山岳スキーの醍醐味を十分に満喫でき、大きな充実感、満足感を得ることができた。メンバーの皆さんに感謝、感謝です。   
記録:→電車、=タクシー、---ロープウェイ等、>>シール登行、***靴アイゼン歩行、...歩行、〜滑降、記録は概ね岩ないしはラスト者時間で記載しております。
◆3/19(木):岩自宅【曇】2200...大久保2210/2218→八幡2234/2244→新宿【曇】2324/(菅沢、梅原、今村、加瀬、岩集合)2354→ムーンライト信州81号→八王子2420(鈴木さん合流)→
◆3/20(金):→白馬【雨】545/730=栂池高原【雨】755/815---栂の森【曇】840/900---栂池自然園【晴】910/920>>天狗原【晴】1050/1110〜蓮華温泉【雨のち雪】1315
◆3/21(土):蓮華温泉【快晴】455〜瀬戸川545/600>>ひょうたん池700>>白高地沢710>>標高1700点830>>稜線2250点1030/1040***朝日岳山頂【快晴】1140/1200〜山頂下1210〜白高地沢1240/1250>>ひょうたん池1310/1320〜瀬戸川1330/1400>>蓮華温泉【快晴】1600
◆3/22(日):蓮華温泉【雨】720〜弥兵衛沢750/800>>峠下905/915**角小屋峠【暴風雨】950/1000〜木地屋【小雨】1125/1140=南小谷【雨】1210/1215→松本【曇】1415/1448→新宿【雨】1732/1738→御茶ノ水1748/1750→津田沼1825/1830(クルマ)岩自宅【雨】1840