薬師岳東面
2009年5月2日(土)〜4日(月) メンバー:(L)梅原、(M)菅澤、加瀬 前日 [タイム] 21:45練馬IC==24:15松本IC==平湯==27:15飛越トンネル 高速道路が1000円となってから最初の大型連休で、予定していた中央道の渋滞予測が40kmと聞いて、急きょ関越道から上信越道経由に変更、松本へ向かう。交通量は多いものの渋滞は無く、スムーズに松本IC到着。松本からは平湯経由、双六川沿いの広域基幹林道で山吹峠を越えていくと、こんなところにと思うほどの山の中に集落が点在している。予定より1時間ほども遅れて飛越トンネル駐車場に到着。 山小屋関係者からは「トンネル手前まで除雪が完了している。」と聞いていたが、除雪ではなく無雪であった。例年は除雪が間に合わずトンネル手前1Km位から歩くそうだから、今年は本当に雪が少ないようだ。トンネルの入り口は板でふさがれていた。先着車は10台ほど。車中で三時間ほど仮眠。 5月2日 晴れ [コースタイム] 飛越トンネル(飛越新道登山口1440m)6:30・・・>>8:30神岡新道合流点(1840m)>>9:30寺地山(1996m)〜>>10:30北ノ俣避難小屋上(2050m)>>12:30北ノ俣岳分岐(2630m)〜>>13:00太郎山(2373m)〜13:30太郎平小屋(2330m) すっかり明るくなった6:30にスキー板を担いで出発。トンネル左脇からのいきなりの急登を30分ほど歩いた標高1600m付近から雪が出始めシール歩行となって重荷から解放される。しばらくはなだらかな樹林の中の登りが続き、曲がりくねった道を神岡新道と合流する辺りからは左手に大日岳、剣岳が、右手には真白な笠ヶ岳、乗鞍岳、遠くに御嶽がどっしりと座っている。アップダウンを繰り返し寺地山を越え、森林限界を過ぎたと思ったら北ノ俣避難小屋に飛び出した。 ここからは薬師岳、黒部五郎岳が左右に望まれ、眼前の大斜面の上には北ノ俣岳が見える。ここから稜線に出るまでの600mの登りが結構きつかったが、帰りはこの大斜面を滑るのが楽しみだ。やっとの思いで稜線に出ると黒部源流の山々が一望できる。ここでシールを外し、今日初めての緩いが長い滑降を楽しんで太郎山の東斜面をトラバース、太郎平小屋へ滑り込んだ。 今日のコースはアップダウンも多く、かなり体力を使うルートだった。時間的にはまだ余裕があったのだが、七時間も歩いた後なので「本日終了」で一致。早速小屋前の雪上で生ビールの入山祝いとなる。天気も申し分なく、無風で暖かい。周辺の山々を見渡しながら至福の時を過ごす。 小屋では予約を早くから入れてあったせいか三畳ほどの個室を割り当てられた。食堂には炬燵があり、大きな乾燥室や自炊室もあって快適だが布団が少し湿っぽい。荷物を整理後、自炊室で加瀬さんが担ぎあげた甘露を楽しみながら明日のコースを検討する。天候も問題なさそうなので予定通り薬師岳まで登り中央カール滑降、東南稜を登り返し薬師沢右俣滑降、薬師平に登り返し小屋に戻るコースとする。 小屋は全くの水不足なので、雪を溶かして明日の飲み水を作ることにしたが、コッフェルが二組ありコンロが無い。共同装備に分担について確認を怠ったためで反省点となった。 本日の宿泊者は30名ほどであった。 5月3日 晴れ [コースタイム] 太郎平小屋(2330m)7:40>>薬師峠(2290m)>>9:30薬師岳山荘(2700m)>>11:00薬師岳(2926m)11:10〜11:15中央カール(2710m)・・・12:00東南稜2840m地点・・・12:30東南稜2800m地点〜13:00薬師沢右俣2270m地点>>14:00薬師平2430m地点〜14:20薬師峠>>14:40太郎平小屋(2330m) 朝食をすませ7:40出発。小屋からシールを付け薬師峠に一旦下る。峠には管理舎の屋根を利用してテントが二張りあった。峠からは急で荒れた斜面を薬師平に登り、薬師平からは稜線通しに冬季休業中の薬師岳山荘の脇を通り2890mの避難小屋に到着。地形図にも避難小屋の表示があるが、屋根は無く石組みの外壁が三方に残るのみで避難小屋跡と言うべきだろう。 当面の薬師沢右俣や西面の鳶谷源頭を観察しながら登るが、まだ凍っている稜線は深い溝が連続していて歩きにくい。東側の雪庇が出ているカールを覗き込みながらドロップポイントを探し、中央カール最上部にスキー板をデポし山頂に向かう。山頂についてみてみると、ここから中央カールに回り込んで滑るルートのほうが楽そうなので板を回収するために戻る。 山頂には薬師如来を祀った祠が安置され、先着者が10名ほど休んでいた。山頂からは360度のパノラマが楽しめ、はるか北方には剣・立山が見える。今頃、作野さん、矢野さん達はあの辺を滑っているのだろうか。山頂北側の金作谷カールは急だが魅力的だ。4人ほどが急なルンゼ状を登り直しているのが眼下に見える。 写真を撮ってから中央カールに滑りこむ。適度な斜度とザラメになる前の良好な雪質で、あっという間にカール底についてしまう。他のパーティは山頂や稜線に登り返していたが、私たちは予定通り東南稜に向けて急な側壁をシートラで登ることにする。上部になるほど急で60度の雪壁を稜線に這い登った。雪の状態によってはピッケル・アイゼンが必要であろう。稜線の反対側は薬師沢右俣の上部に当たり、南面にあたるせいか這松が出ている。 今朝、稜線を登ってくる途中で目を付けていた急な一枚バーンの斜面をを滑ろうと、稜線を板を担いだまま暫く下り、2800m地点で板を付けノートラックの斜面に飛び込む。ここは中央カールより大分急で、沢芯までの200m以上を一気に滑り降りる豪快な滑降だった。昼をまわっていたが雪質は若干のフィルムクラスト状でとても滑りやすい。沢芯には先月末に降ったと思われる真白で柔らかい雪がたまっていて自由自在に曲がることができ快適だ。右俣本谷をそのままどんどん滑り、2270m地点で停止。ここまで降りると両側がせまっていて、薬師平方面の上部稜線には雪庇が張り出している。一部は崩落していて気味が悪い。小休止もそこそこにしてシールで登り始めるが、雪庇が崩壊してきても流れからはずれるようリーダーがうまくルートを選んでいく。そろそろ疲れも出始めこの急な登り返しは大変だった。最後は雪庇の張り出しの一番小さいところを両手・両膝で稜線に這い上がる。そこは平らな薬師平の一角で、凹部をトラバースした後、荒れた斜面を薬師峠にする。峠からはシール登高で小屋に戻った。 素晴らしい滑降を楽しめた充実の一日だった。早速食堂で缶ビールの祝杯をあげる。一升の甘露も二日で無くなってしまった。食堂のテレビの天気予報では明日の晩から雨模様と報じている。明日一杯の天気は持つようだ。予定通りの日程で行くか、明日下山するか。この3月、暴風雨の中の蓮華温泉からの下山が脳裏に浮かぶ。結論は日程短縮しての下山だった。今晩の泊り客は100名近くに増え、食堂の炬燵も撤去されていた。 5月4日 高曇り [コースタイム] 太郎平小屋(2330m)7:30>>太郎山>>9:00北ノ俣岳(2662m)〜9:30北ノ俣避難小屋上(2050m)〜>>寺地山(1996m)〜>>飛越新道分岐(1840m)〜・・・12:30飛越トンネル(1440m)13:0==平湯==17:00松本IC==21:45練馬 朝食を済ませたのは早かったのだが、泊り客が倍以上となって朝のトイレは長い順番待ちとなってしまい出発は7:30となった。昨日はほとんどが薬師方面だったが、今日は北ノ俣方面に向かっている。みんな我々と同じように下山するのだと思い、トレースを追って北ノ俣山頂に着くと、皆さん黒部五郎方面に向かうようだ。昨晩、自炊室で話し込んだパーティもいて「やはり黒部五郎に行くんですね。ご一緒しましょう。」と声を掛けられ、「いやーじつは・・・」と頭をかきながら皆さんとは反対方向に戻る。 シールを外して少し稜線を戻り、いよいよ大斜面の滑降だ。斜度は緩いものの距離はたっぷりあり、雪も硬めなのでスピードに乗って滑り続ける。我々三人の独占斜面だった。登りは苦労した斜面を10分ほどで北ノ俣避難小屋に到着。小休止の後、樹林帯の下りとなる。 狭い上に曲がりくねってアップダウンも多いのでシールを付けての下りである。寺地山を越え、板を担いだりしながら飛越新道への分岐近くまで来て、ようやくシールを外して滑ることができた。先行していた四人組の後を調子に乗って滑っていたら、先行者がコースを間違えたのにつられ一本南側の尾根を下ってしまい、少し登り返すことになる。雪が切れてからは兼用靴をどろどろにしながら飛越トンネルに向かい駆け下った。平湯での温泉休憩は割愛して松本まで走り、ラーメンで塩分補給、うまかった。平湯〜松本にかけては観光客の車がいっぱいで、上信越道・軽井沢から関越道・寄居辺りも長い渋滞に巻き込まれたが22:00前に練馬ICに到着することができた。 今回は予定を短縮したが、それでも十分に5月の雪を堪能でき、特に二日目の満足度は高かった。 この時期の薬師周辺は入・下山に時間がとられるがそれさえも楽しめ、稜線に上がれば素晴らしい滑降ルートがいくらもあって魅力的な山域だと思う。次の機会は金作谷カール、鳶谷〜岩井谷、黒部五郎〜ウマ沢〜薬師沢左俣を楽しんでみたい。 菅澤 記 |