Last Update : 2010/09/23  戻る

間ノ岳・北岳
<広河原から 剥がれたソールで二山をこなす>


2010年8月8日(日)〜13日(金)

メンバー:梅原秀一他1名

北岳山荘に電話予約をすると、大樺沢経由ならアイゼンが必携と警告された。以前7月中旬の猿倉小屋で、大雪渓はアイゼンがないと登れないからとレンタル・アイゼン(四本爪)を強要されたけれど、登りではアイゼンなしでも何ら支障はなかったし、下りはスキーを使ったので、全くお呼びでない道具であった。また、以前当会で橋本さんが6月初旬に企画したスキー納めのときは、八本歯ノコル直下まで兼用靴のキックステップで問題なく登れた。しかし今回は雪山未経験者が同行するので、当会の何人かの御意見を伺い、同行者にストックのみ持たすことにした。

8月1日:曇一時晴

新宿8時丁度の特急で甲府下車し、広河原直通のバスに乗り継げば、正午には野呂川の吊橋を渡ることが出来る。この日は白根御池小屋泊まりなので楽なものだ。

急坂が終わりトラバース気味になると、右の爪先が地面にスライドする違和感。ソールの爪先部分が剥がれていた。こんな経験は3回目だが、登山開始そうそうというのは初めてだ。靴の甲から細引きを延ばし、ブラブラしている爪先を引張り上げて縛り付けた。数年前に買ったGARMONTのゴア製登山靴で、年に1‐2回短期の登山に使うだけだったので、それ程損傷しているはずがないと思い込み、全く事前チェックしなかったのがいけなかった。左ばかりではなく、右の爪先のソールにも亀裂が入っていた。

 白根御池小屋は近代的な奇麗な小屋で、ソフトクリームだって売っている。夕食までの時間、小屋の前で流れる雲に見え隠れする北岳のピークを見ながら、生ビールを飲んだ。

小屋から、混雑するので布団2枚に3名で寝るよう指示され覚悟を決めていたところ、夕食後に「布団1枚に1名で大丈夫」と方針変更がなされた。同室の何名かが他の部屋に移っていった。

[タイム] 大樺沢出合12:05−二俣方面との分岐12:25−13:40白根御池小屋

8月2日:曇一時晴

朝食4時半で5時半出発。八本歯ノコル経由で北岳は登らず間ノ岳を目指した。

大分幅の狭くなった雪渓の右脇の土の登山道を詰めていき、雪渓を歩くのは稜線直下でほんの約30m程度の幅を左に横切るのみである。殆ど水平であるうえ、人為的に雪が削られているので、アイゼンを携行した登山者は多くとも、装着する人は皆無だった。

ここから先は初めてのルートである。八本歯ノコルは木製階段が要所要所に設置されている。また稜線付近から上は雲の中なので高度感もない。左程危険は感じなかったけれど、何となく心がざわついて良い気分とはいえない。元来岩稜を恐れているからだろう。

北岳山荘へ導くトラバースのルートに入って、やっと荒々しい岩のルートが終わったのでほっとした。高山植物も大分見かけるようになった。

北岳山荘からは軽装で出発。間ノ岳までは恐ろしげな岩稜もなく、大きな起伏もない日本有数の高所の稜線なので、晴れていたら鼻歌交じりに歩けただろうに、霧の中で展望が利かなく残念だ。ただ雷鳥を二度見かけたことはラッキーだった。途中、左足のソールも爪先が剥がれ、こちらも細引きで縛り付けることにした。

間ノ岳から北岳山荘に戻ったのは11時過ぎ。時間はたっぷりあるのだから農鳥まで足を延ばせば良いのに。と思う人も多いだろうが、雷が怖いという理由を盾に、農鳥が百名山になっていようがいまいが、グータラ路線を守るのだった。

まずは生ビールで昼食の後昼寝。3時頃起きて缶ビール片手に稜線まで歩き(小屋からたかだか高さ数メートルの登り)、雲が流れて時折姿を時折現す北岳方面を眺めていた。

白根御池小屋よりも高所にあり小規模である北岳山荘は、居住環境が厳しい。この晩も布団2枚に3名と指示されたが、それは昨晩同様、就寝間際に一枚に1名に変更になった。しかし、6時頃到着した数名は、1階通路に敷かれた布団に寝かされた。

それより問題は、食堂の収容が60名程度で食事が3回に分けられること。撤去と配膳を合間に行うので、1回目が4時半でも3回目が終わるのは8時近く。消灯時間8時半に近い。この状況では、ビールを飲みながらゆったり食事など出来る訳がない。そして食堂以外に休憩室はないので、他に寛ぐ場所はない。何のために山に来たのだー!!

夜10時頃バチバチと屋根を叩く音に目が覚めた。豪雨であった。午前3時頃目覚めると、半月が見られた。今日は楽しめるぞー。

[タイム] 白根御池小屋5:35−二俣5:55−7:20八本歯ノコル7:25−北岳山荘への分岐(巻き道へ)7:40−8:30北岳山荘8:45−中白根山9:15−10:00間ノ岳10:15−中白根山10:55−11:20北岳山荘

8月3日:曇一時小雨

小屋の天気予報さえ外れてしまい、小雨が降っている。北岳も間ノ岳も霧の中だ。4時半朝食で5時半出発。雨具無しでも苦にならない降雨となり、風も殆ど無い。

北岳へは昨日と異なり、巻き道はとらずに稜線上のルートとした。山頂直下の荒々しい岩場を、単独行の老男性がストックにすがってヨロヨロ下りて来た。「怖いなー」背筋が凍りつく。登山ブームの昨今、こんな光景は珍しくない。

北岳には予想通り大勢の登山者。日本第二の標高のピークに立っていなかったことの後ろめたさから解放されたものの、何等展望がなく感動もない。5分もせずに立ち去った。

北岳肩ノ小屋まで下ると、北岳を覆っていた雲から抜け出した。なだらかな広々とした尾根に変わり、岩場の強迫観念から逃れられた。甲斐駒(南駒)と中央アルプスも雲の中から姿を現し始め、高山の爽快感を散歩気分で楽しんだ。

草スベリの下りで、ソールは左右とも土踏まずの部分を除いて剥がれしまった。爪先部分のソールはボロボロに破損して、6割程度しか残っていなかった。白根御池小屋を過ぎて最後の下りに入ると、両足とも完全に靴底は剥がれた。細引きをがんじがらめに靴に巻きつけ、ソールを括り付けた。アッパーだけでは、グリップが効かないと思われたからだ。すれ違う登山者には、奇異な目で見られた。



北岳肩ノ小屋

それでも無事に広河原山荘に下山出来た。何事も何とかなるものなのだ。と、喉元過ぎればということで、細引きをすべて解き、ボロボロのソールはゴミ袋に入れた。片方の細引きは、切れる寸前であった。(その後、甲府駅前のデパートでサンダルを買い、登山靴は店に処分を頼んだ)

広河原山荘には、主にキャンパーが利用するコイン・シャワーがあった。また、芦安温泉で途中下車して温泉に入る登山者も多い(バス料金は甲府へダイレクトに行くより僅かだが高い)。しかし入浴後間髪を入れず馬刺と?飩が山梨の掟である。迷わず一路甲府でいつものホテル談露館の温泉(1,050円とやや高い)。そして駅前通りの小作というフィナーレであった。

未だ日本第二の高峰に立っていないことから、S氏の誘いに乗った登山であった。覚悟していたにも係わらず、夏山最盛期に高名な山に登ることは、あまり快いものではない。とはいえ、次第に削られていく登山靴を履いて、悪天候に遭わずに予定通り日本有数の高峰を二つも登ったのだから、非常に運が良かったのだろう。
[タイム] 北岳頂上小屋5:35−吊尾根分岐5:55−6:25北岳山頂6:30−両俣小屋への分岐6:50−7:00北岳肩ノ小屋7:10−二俣との分岐7:30−8:20白根御池小屋8:25−二俣への分岐9:30−9:45広河原山荘

梅原 記


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