Last Update : 2010/11/30  戻る

黒部・下の廊下


2010年9月23日(木・祝)〜24日(金)

メンバー:菅澤他1名

吉村昭氏の「高熱隧道」を読んで下ノ廊下に興味を持ち、いつか歩いてみたいと思っていた。

豪雪の谷沿いルートは残雪状況により毎年開通時期が不定期で、8月からチャンスをうかがっていたが、最後まで残る黒部別山谷出合のブロックが9月20日頃には崩落しそうだとの情報を得て出かけることにした。

下ノ廊下はスリルのあるトレッキングルートといった感じで、水平歩道・旧日電歩道とも登山技術よりも持続的注意力が必要なルートである。谷にかかるブロックの崩壊前や、高捲きのハシゴ、桟道の整備前であったらかなり困難で、むしろ危険だと思う。

電力を確保するための先人の労苦が偲ばれる山行だった。

前夜 新宿西口バスターミナル23:20=(夜行バス) =

9/23
 =6:00富山駅6:24=6:41滑川6:59=7:55宇奈月温泉―宇奈月8:17==9:33けやきだいら駅(590m) (雨)9:50―10:30欅平―12:15志合谷―大太鼓―折尾谷―14:30阿曽原温泉小屋(850m 泊)

宇奈月からの黒部峡谷鉄道のトロッコ列車は雨天だったので窓付きの車両に変更した。紅葉にはまだ早く、天候も悪いせいか乗客はガラガラで、そのうち半分は中国からの団体ツアーだった。電気機関車2台で客車13輌を牽引して黒部川沿いを走る。途中に見えた吊橋は猿専用とのことで手すりがなかった。宇奈月、出し平、小屋平と三つのダムを過ぎてけやきだいら駅に到着。

雨具を着けて傘をさしながら250mほど登ると欅平に着く。ここから水平歩道が始まる。この3日間、雨が降り続いているせいか岩壁からのシャワーが多く、濡れた丸木の桟道は滑りやすい。切り立った岩壁に穿たれた50cm幅の歩道は山側にワイヤーが張ってあるが、川床まで50〜60mほどもあり、滑ったらケガではすまない。

志合谷のトンネルは150mほどあり、中は真っ暗で水も流れている。ヘッドランプを点けて慎重に歩いた。

大太鼓あたりで見えるはずの奥鐘山西壁はガスの中で見えず残念。

折尾谷を越える際、砂防堤を登り渡渉を試みたが水量も多く対岸の堤を降りるのにも苦労しそうなので諦めて戻り、よく見ると砂防堤を落ちる濁流の裏にトンネル入口があった。水量が多いので隠れて見えなかったのだ。傘をさしたまま「えいや!」とトンネルに飛び込んだが傘は役に立たず、襟元から大量の水を浴び下着までずぶ濡れとなってしまう。Aさんの傘のシャフトは水圧で折れてしまった。

崩落している急坂を下って阿曽原谷を渉り段丘の上の阿曽原温泉小屋へ到着。

濡れた衣類を乾燥室に干してから5分ほど下った露天風呂に向う。見晴らしのよい二人だけの風呂をゆっくり楽しんだ。夕食までの時間をビールと地酒で過ごす。夕食は揚げたてのフライとてんぷらが主菜でおいしかった。小屋の人たちもとても親切だ。本日の宿泊は6名とテント一張りのみ。いまどきどこでもタバコの吸える小屋はめずらしい。空いていたからの特例だったのかもしれない。この小屋は10月末には雪崩に備えて建物を解体するという。

9/24

 阿曽原温泉小屋(850m)5:30―6:00権現峠―6:30仙人ダム―6:45東谷吊橋―7:35半月峡標識―8:20十字峡8:30――9:20白竜峡標識―9:50別山谷出合10:10―10:55新越沢― (曇り) 11:15鳴沢小沢―12:15内蔵助谷出合―13:05ダム下13:15―13:55黒部ダム(1,470m) 14:35 =14:50扇沢15:05= =16:47長野17:08=18:26大宮

雨は上がり、沢の色も褐色からグリーン色に変わっていたが水量は多い。

小屋の裏手から100mほど登り、仙人池方面への分岐を左にいくと車道ほどの広い道となるが、すぐ狭い山道に戻る。権現峠を越えて急坂を人見平へ降ると4階建のビルが現れる。こんな山の中にと思ったら仙人ダムの関西電力宿舎だった。地下の高熱隧道から熱い蒸気が流れてくる脇を通り、歩行者用トンネルから仙人ダムの上を右岸へ渡る。仙人ダムから上流が旧日電歩道と呼ばれている。

沢の対岸の岩壁中腹には、黒四ダムから引き込んだ地下水力発電所につながる送電線の出口が二つ、大きな口を開けていた。しばらく工事用道路をすすみ東谷吊橋を渡って左岸へ戻る。このあたりがS字峡と言われるところらしい。地図でみるとS字に蛇行しているが目視でははっきりとはわからない。桟道やハシゴは新しく付け替えられていた。

半月峡を過ぎ、十字峡では右岸から棒小屋沢がドウドウと流れ込んでいる。左岸から合流する剣沢を渡る吊橋で休んでいると、山仕事の人たち7名が早い足取りで追い越していった。彼らは別山谷出合までの旧日電歩道の補修作業の人たちだった。

白竜峡を過ぎると道は川床に近づき、激流の轟音が一段と大きくなる。

別山谷出合近くではワイヤーが張ってないところや桟道が落ちかかったままのところもあり、補修は完了していないようだった。一年のうちわずか一ヶ月開通のために毎年整備・補修を繰り返す労力は大変なことだと思う。  大きなスノーブリッジが残る別山谷出合で昼食の後、行程の中で一番長い高捲きのハシゴにかかる。20mのハシゴの下は黒部川の激流で慎重に進む。このあたりから黒四ダムから下ってくる登山者とすれ違い始めるが数は少ない。この日、下から登ったのは私たちだけのようだ。水量が多く見ごたえのある新越の滝を眺め、内蔵助谷出合を過ぎるあたりからは一般の登山道となり、道もしっかりしてきた。

ダム下から仰ぐ黒4ダムはまさに偉容だ。観光放水の霧を浴びながら休んだ後、ひと登りでトロリー道路のトンネルに入って黒部ダム駅に到着。予定より1時間半ほど早い。

この日は奥黒部ヒュッテに泊まり、翌日は五色ヶ原山荘泊、一ノ越からタンボ平へ下山する予定でいたが、二人とも下ノ廊下を30km歩いてお腹一杯状態だったので扇沢へ下山と決定。扇沢から長野直行の特急バス、長野からの新幹線乗り継ぎもスムーズで早い時間に大宮に着いた。

菅澤記


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