Last Update : 2014/06/26 戻る

奈良盆地南部三山 (ニ上山・高取山・三輪山)

平成26年5月5日〜7日

梅原秀一(単独)

 連休は皆北アルプス等の雪壁に取りついているというのに、こちらは標高600mにも満たない低山のハイキング。後ろめたいような情けないような気分を幾分携えての出発であった。しかし、この三日間、むせかえるような新緑に包まれ、神話の舞台や古戦場を訪れることも、決して引けを取らなかった。と、思う。無理矢理でも・・・

5月5日 二上(ニジョウ)山 天気:終日小雨

 新幹線始発を京都で降り、近鉄で橿原神宮前駅下車。昨年12月に大和三山を登った際に利用した橿原神宮ロイヤル・ホテルに荷物を預けた。このホテルは駅舎に隣接しているので至極便利である。

 橿原神宮前駅から近鉄・南大阪線で七つ目の当麻(タイマ)寺駅で下車。傘をさして参道を1キロほど歩くと知る人ぞ知る當麻(タイマ)寺となり、その右脇の細い道路が頂上へ導く林道に変わる。導標が少なく分かりづらく、15分ほどロスした。

 小沢沿いに高度をあげ、祐泉寺の二又を左に入るとやがて登山道に変わり、岩屋峠(二上山雌岳の西側鞍部)に出た。更に急勾配を数分登ると雌岳(標高474m)山頂。躑躅の小庭園であった。残念ながら視界が悪く、近隣の山々さえ望むことは出来なかった。

 東に鞍部へと下ってから雄岳(標高517m)山頂へ。木立に覆われた緩い起伏の平凡な山頂で、樹木で展望は殆ど得られない。山頂を東にほんの僅かに下ると、横4m・縦十数mほどの宮内庁管理大津皇子(オオツノミコ)墓所がある。

 壬申の乱で実兄・天智帝の子・大友皇子(弘文帝)を自殺させ皇位を簒奪した天武帝の子大津皇子は、当時最高のプレイボーイだった。彩色兼備の坂ノ上郎女(サカノウエノイラツメ)との和歌の交換は万葉集で広く知られている。すっぽかされた大津の「足引きの山のしずくに妹待つと吾が立ち濡れぬ山のしずくに」に郎女の返歌「吾を待つと君が濡れけむ足引きの山のしずくにならましものを」。間もなく二人は結ばれた。一方皇太子であった有馬皇子も郎女に求愛の歌を送ったが、振られた。天武帝が崩御して間髪をいれず、有馬の母は、文武に優れた大津が凡庸な我が子を脅かすことを恐れ、大津に謀反の罪をきせ逮捕し翌日には処刑した。大津は彼女にとって実の姉(ともに天武帝の后)の子でもある。しかし皮肉なことに、有馬は病死して即位出来なかったため、彼女が天武帝の後を継ぎ持統天皇となった。教科書に載っていた皆様ご存知の「春過ぎて夏来にけらし白妙の衣干すてふ天の香具山」は持統帝の歌である。

 往路を戻り、雄岳と雌岳の鞍部から南に下り、先程の祐泉寺を経由して下山。降り続く小雨の中、當麻寺を拝観した。連なる二つの五重塔と、庭園の石楠花・芍薬など洋物を含め多種の花々が、新緑に映えていた。

近鉄・当麻寺駅10:20−当麻寺仁王門10:40−山口神社11:15−祐泉寺11:30−岩屋峠11:40−11:55雌岳12:05−12:15雄岳12:25−祐泉寺12:45−13:25当麻寺



左端双耳峰が二上山 右端中ほどに畝傍山 高取山・国見櫓跡から

5月6日 高取山 天気:快晴

 近鉄吉野線で橿原神宮前駅から三つ目の駅、壺阪山で下車したのは私一人きりだった。早朝の人影のない高取城下町を抜けていく。昔のままの商店や蔵が残っているレトロ極まる街だ。町はずれから高取川沿いに田畑の中を徐々に高度を上げ、林道から登山道へと変わった。九十九折りの急坂を登ると広く緩やかな尾根となり、城門の名残の石垣が現れ始める。新緑の木立とシャガの群生と鳥の鳴き声に包まれ実に爽やかだ。

 一旦右の脇道に入り国見櫓跡に寄道。足元の高取の街から続く奈良盆地が見渡せた。昨年末に登った大和三山。昨日登った二上山は双耳峰なのですぐに見つけられた。

 本道に戻って僅かに登れば城郭の中心部で、山頂は本丸跡そのものである。早朝に訪れたので、これまで登山者には一人も会っていないという静寂さの中に現れる城郭であった。それは、マチュピチュの遺跡に突然遭遇したような気分、と言ってもよいのではないか? 

 標高584mの山上に南北朝時代から明治維新まで続いた城郭で、幕末期に高取藩は2万5千石の小藩ながら、歴史に足跡を残した。1863年土佐脱藩吉村寅太郎達が公家中山忠光を首班に天誅組として大和で挙兵。8月17日天領五條の代官所を襲撃し代官を殺害・梟首。勢いづいて農民から徴兵した千人あまりの兵力で高取藩を26日に攻撃した。対する高取藩は200名足らずながら、堅牢な城壁と大砲で撃退した。その後天誅組は紀州・津藩などの追討軍の攻撃を吉野で受け、9月24日に壊滅。吉村寅太郎は銃殺され、中山忠光は辛くも下関に逃れたが、長州藩に裏切られ11月9日に暗殺された。残存している、険阻な地形に積まれた落差の大きい石垣は、難攻不落な城郭を忍ばせた。

 西に五百羅漢を経て壺坂寺へと下山。こちら側からは林道が山頂直下まで届いているので簡単に登頂出来るが、それでは面白くも何ともない。

 壺坂寺は奈良時代から続く広大な敷地を持つ真言宗の寺で、大勢の参詣客で賑わっていた。インドの様式を模した仏像や建物が多い。物販に非常に精力的過ぎるので、失礼ながら当麻寺と比べると長居したいと思えなかった。

 バスの本数が少ないので、自動車道を高取城下へと歩いた。落ち着いた雰囲気ではあるものの小規模な城下町なので、時間を持て余した。再び近鉄に乗って大和郡山に行き、25万石の城と金魚の養殖池を見学してから、橿原神宮前の宿に戻った。

 この日は初夏の日差しを受けて20q近く歩いただろう。一月末の駅伝でアキレス腱を痛め、ジョギングも出来ない状況が続くなか、キロ10分前後の速さで歩くことが出来た。足の状態によっては、仏像見学に予定変更することも考慮していたが、明日は山の辺の道、大丈夫だ!!!

壺阪山駅8:10−8:45宗泉寺8:50−登山道入り口8:55−9:25国見櫓跡9:35−9:55高取山山頂(本丸跡)10:05−五百羅漢10:30−10:45壺坂寺11:15−12:20壺阪山駅



高取城址

5月7日 山の辺の道と三輪山 天気:快晴

 近鉄始発電車で天理駅に。駅から東へ約2qに位置する石上神社が、山の辺の道の基点となる。まず商店街のアーケードを進むと、幾組もの天理教徒の20〜30人の集団とすれ違った。この日は平日の早朝。毎朝こんなものなのだろうか?商店街を過ぎると、教団の巨大で独特な建物が連なっていることに驚嘆した。

 山の辺の道は、奈良市の春日山麓から桜井市・三輪山山麓までの古代の公道。南半分の、この石上神社から三輪山の麓にある大神神社までの十数キロが人気の区間である。
今回は観光ガイド・ブックには殆ど紹介されていない北部の区間、石上神社から白河ダム間約4qを往復してから、三輪山方面に向かうことにした。将来は北部区間も完歩すべきかどうか判断するためである。で、この区間を簡単に述べると、当初の2qほどは天理教の巨大施設がまだまだ続きその脇を通ること。以降田畑や林の中を行くこと。人気のないコースなので、南部コースに比べて道標が乏しいこと。等があげられる。

 石上神社に戻って三輪山を目指した。道は、時折自動車道になったりもするが、車が通行できない細道が大部分を占め、田畑の中、或いは崇神天皇や景行天皇の古墳に沿っている。高低差50〜100m程度の起伏を幾つも越えて、待望の狭井(サイ)神社に到着。



 三輪山に登るにはこの神社の許可が必要だ。受付は9:00AM〜2:00PM限定。巫女さんに入山初穂料300円を渡すと鈴が1ケついた白襷を渡され、「登山は止めてください」と言われて「???」。要するにあなたは山登りを楽しむのではなく、信仰として頂きに立たねばならない。ということである。その他、水以外は持ち込み禁止とされ、カメラなども無料コイン・ロッカーに預けた。

 霊験あらたかな巨木の林の中、前半は小沢沿いの良い雰囲気の山道である。小生の武道の先輩は、これ程の霊感スポットは他にないと述べていたが、凡人にはそれは感じられなかった。ただ、厳かな気分には大いになった。非常に美しい20歳代と思しき女性が、裸足で登っていたことが印象的であった。

 下山したら本場物を忘れてはならない。三輪素麺である。老舗の森正に駆け込んだ。既に約25qに加え三輪山登山で汗だく。ビールが欲しいところだが、素麺で真剣勝負している店は酒を置かないのだった。初めに板ワサで冷たいのをグビグビといきたかったのに。不覚であった!!

 さて、更に桜井駅まで歩き続ける予定であったが、一度座って休んでしまったら、両太腿が張ってズキズキ痛み始めた。この先は住宅地を抜けるようなので面白くはない。と都合よく判断して、直ぐ近くのJR三輪駅をゴールに変更した。ホテルに預けていた荷物をピック・アップして、京都経由で帰途についた。

 奈良や京都の観光というと、神社仏閣が対象となっている。今回は當麻寺と壺坂寺をついでに参拝したが、主としてありふれた田園風景を眺めてひたすら歩いた。この様な平凡な里山の中に、日本の風土の素晴らしさが残っているのに違いない。新緑の最も瑞々しい季節を選択したのも最適だった。当分は暑くてやってられない季節が来るので、次回は紅葉が目に染みる季節に、足を治してジョギングで楽しみたいものである。柳生の里・北国街道・鯖街道・熊野古道など、何れにしようか?

天理駅5:50−石上神社6:15−7:20白河ダム7:40−石上神社10:35−11:30狭井神社11:40−12:10三輪山山頂12:20−狭井神社12:40−12:45大神神社12:50−12:55森正13:25−13:35JR 三輪駅



 


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