Last Update : 2016/11/26 戻る

【大杉谷〜日出ヶ岳、大普賢岳・山上ヶ岳】


 昨夏、熊野古道・奥駈道の弥山での御来光の際、雲海の滝が掛かる大台ヶ原・台高山脈を見てこの地の山深さに興味が湧いた。廃刊となった雑誌・岳人2014年7月号に10年振りに開通した大杉谷の紹介があり、日出ヶ岳に登るにはこのルートと決めた。しかし、遠隔地であり、交通の便も悪く単独行では心許ない。今回、菅澤・加瀬両氏の賛同を得て実現できた。飛び石4連休の日程が確保できたことから、昨夏に時間切れで断念した奥駈道の核心である大普賢岳〜山上ヶ岳の縦走を加え充実した山行ができた。

【日程】2016年11月3日(水)〜6日(日)

【山域】 台高山脈・大杉峡谷〜日出ヶ岳、大峰山脈・大普賢岳、山上ヶ岳

【構成】 L:田中秀和、M:菅澤秀秋、加瀬幸男、S氏(会員外)

<11/3・木>

(田中)立川駅北口22:45→(夜行バス)→6:35松阪松阪6:48→JR→7:40三瀬谷 (菅澤、加瀬、鈴木)東京6:16→(新幹線)→7:53名古屋8:05→JR→9:46三瀬谷  三瀬谷・道の駅「奥伊勢おおだい」10:30→予約制バス→12:00大杉峡谷登山口(285m) 12:10 >> 13:30千尋滝13:35 >> 14:25シシ淵14:30 >> 15:00平等ー15:05 >> 15:30桃の木山の家(480m) [泊]

 山に雲は掛かるが天気は晴、この先3日も好天予報で期待が膨らむ。JR紀勢本線・三瀬谷駅に隣接する道の駅“奥伊勢おおだい”が登山口へのバス起点。道の駅の食堂は8時から、隣接のスーパーは7時半から営業と待ち合わせや準備に都合が良かった。10時前に全員集合、10時30分発の1日1本の予約制バス(マイクロ・20人乗り)に乗り込む。満員となったバスは1時間ほど宮川を遡り、宮川ダムを過ぎて直ぐの大杉谷登山センターでトイレ休憩と登山届提出をチェックし、更に30分、細くなった道幅で車の擦れ違いに難渋しながら登山口(290m)に着いた。東屋のある登山口はダム湖周遊船の船着き場ともなっているが、水位が低いため運休中とのこと。

 発電所をフェンス沿いに進むと直ぐに大日ー(だいにちぐら)の裾をくり抜いた岩棚歩きとなる。川の水面までは10m程なので黒部・下廊下のような迫力は無いが油断禁物、岩質は古生代のチャートや石灰岩が主体で堅固。休憩に好適な京良谷出合を過ぎて程なく右岸に千尋滝(落差135m)が懸る。ビューポイントには東屋(350m)があり暫し滝を眺めながら休憩。

 黒部・下廊下とは一味違うアップダウンの激しい登山道は、その維持に大変な労力がつぎ込まれていることが忍ばれる。岩場の鎖を掴む度に、ハイキング気分が本気モードにアップしてゆく。嘉茂助谷出合の手前で河原に下りる。両岸の岩が門扉のように狭まり、淵の上流に滝(ニコニコ滝)が見えるシシ淵である。しかし、深い谷間の午後で既に陽射しは弱く、山水画のような光景もシャッターチャンスは過ぎていた。

 左岸の岩戸を高巻いて暫くすると、左岸に平等ーの絶壁(高さ170m)が見え、これを観賞するように吊り橋を渡り右岸に出る。これまでより若干穏やかになった道を進み、大杉谷の南側山腹に付けられた林道に上がる道の分岐を過ぎて間もなく、吊り橋の向こうに桃の木山の家(480m)が現れた。ここまで3時間20分、ちなみに山と高原地図では所要5時間10分、地元のガイドマップでは4時間20分とされていた。また、国土地理院図には千尋谷および平等ーから林道に上がる道が記されているが気が付かなかった(現地に標識は無かった)。

 電源開発工事の飯塲(前線基地)のような雰囲気のある山小屋は定員250名とか、紅葉シーズンの連休を考慮し個室を確保していたが宿泊者は50人超位で意外と閑散、それでも到着時刻が重なるためか順番待ちとなった風呂で汗を流す。個室で遠慮なく宴会が始まり、夕食後は酔いと疲れ+夜行バスの寝不足で沢の音も気にならず爆睡。 (追記:同宿のフロアに地元消防隊員2名が滞在、昨日大杉谷で踵を痛めた40代男性(金属製の当て木で固定)を下山させる方法を小屋番たちと遅くまで検討中していた。)

<11/4・金>

桃の木山の家6:50 >> 7:15七ツ釜滝7:25 >> 8:10光滝 >> 8:20隠滝 >> 8:35与八郎滝 >> 8:50堂倉滝 >> 9:00 c870mP(休憩)9:05 >> 10:05粟谷小屋(1,150m)10:30 >> 12:25日出ヶ岳(1,695m)12:55 >> 13:40尾鷲辻 >> 14:10大台ヶ原ビジタ−センター(1,574m)14:25→(予約タクシー)→15:10和佐又山ヒュッテ(1,150m) [泊]

 まだ暗い5時半起床、6時に朝食、お弁当を受け取りゆっくりと7時前に出発。今日も晴れ、沢沿いだが朝露が気になる草むらは無い。30分弱で合計落差が80mという美しい連瀑の七ツ釜滝(七つすべては見えない)に着く、ここには幅2m超の床を張った宴会でもできそうな東屋が建っていた。

 滝の上流で右岸に渡り、太い鎖が連続する岩棚をヘツって進むと大水害時の崩壊地に着く。径5m超級も散見する岩塊が造り出した自然のロックフィル式砂防ダムである。上流側には土砂が溜まった河原が200mほど続き、程なく沢が左折する地点で光滝(700m)が懸る。落差40m、滝壺の無い下部がナメ滝状で水量もあり見事。

 左岸へ渡る吊り橋の終端左下に隠滝、渡り終えて間もなく右岸支流に与八郎滝を見て進むと、谷がやや明るくなり右手上方に岩壁が連なり、発電用取水堰が見えた地点で吊り橋をまた右岸に渡る。ここで谷は西の谷と堂倉谷とに二分され、堂倉谷には落差は20m程だが水量豊かで大きな滝壺が美しい堂倉滝が懸る。これを吊り橋から眺めながら日出ヶ岳の登りに取り付く(790m)。

 出発から2時間、調子が出てきた勢いで絶好の休憩ポイントを逃したので100mほど高度を稼いだ地点で小休憩。水場のある粟谷小屋に寄り道することを楽しみに急登が始まる。剥き出しとなった杉檜の根が絡み合い雨の浸食から道を守っているようで痛々しい、木々に感謝。

 10時、林道に出た先の登山道ルート上に避難小屋の堂倉小屋を確認、林道を右手に進み標高1,150mの粟谷小屋に着く。訪れる人も少ないであろう静かな古い小屋だ。小屋番のお婆さん挨拶し外のテーブルでコーヒーを沸かし、今朝受け取った“ちまき”弁当で昼食休憩。

 小屋からは堂倉小屋に戻らずショートカットの沢沿いを登る。鬱蒼たる針葉樹林を進み本道との合流点から尾根筋のシャクナゲ坂となる。所々岩の露出した痩せ尾根のある道は次第に杉檜からヒメシャラやブナ、樺の類いに変わる。登りが一段落したシャクナゲ平の標識を過ぎ、1,525m点付近からは足下に背丈の低いイト笹(都笹か)が多くなり芝生のように広がる緩やかな斜面が多くなる。

 森林限界を抜けたような高木の無い山頂部(伊勢湾台風後遺症)が近づくと急に賑やかになる。日出ヶ岳山頂には展望櫓も組まれているが、登らずとも熊野灘から大峰の山々が見渡せる一等三角点である。条件良ければ富士山も見えるという。ここまで今日はほぼコースタイム通り、下山路に当初予定の大蛇ー見物は既に体験済みが多く、リハビリを勘案し割愛と決定、再び大休憩。大台ヶ原ビジターセンターでのタクシーを仮予約通り14時30分と連絡し、下りの足にダメージが少ないであろう尾鷲辻経由を選び、木道脇の説明看板では大台ヶ原のお勉強をしながらのんびり下る。

 ビジターセンター前の広い駐車場(約200台)はほぼ満車状態、多くが観光客?と家族連れハイカー。タクシーの車窓から重畳たる山並みを楽しんだ後、明日登る大普賢岳から東に延びる尾根を国道109号新伯母峰トンネルで潜り抜け、和佐又山ヒュッテ(1,150m)着は15時過ぎ。国道のバス停から歩きとなれば、バスが着くのは16時23分であるから暗くなった17時半頃になってしまう。8,510円也のタクシー代も4人揃えば安いものである。

 冬はリフトの無いスキー場と化すキャンプ場の古びた管理棟が今日の宿、毛並みの良い有色の紀州犬が番をする広い休憩所&食堂で受付を待つのが寒い。通された部屋も50畳近い板の間、三方に三段ベッドを置く天井の無い寒い部屋、定員はざっと60人か?小さなストーブが1台焚かれる。留守番だというお婆さんにお風呂を催促し、湯が溜まるまで寝具を座布団にして開宴。

 食堂で犬が騒ぎだし夕食を知らせる。野菜たっぷりの田舎鍋と素朴な料理がなかなか美味い。賄いと会計の仕事を済ませて直ぐに娘さんらしき管理人は下に帰ってしまった。お酒の注文も面倒くさがる一方、朝食の時間を問えば、何時でも良いですよと軽く答える留守番のお婆さんも面白い。お客さんに無関心を装うこの雰囲気もまた気楽で居心地良い。布団に潜り込む前に再度風呂で暖まる。外は満点の星。

<11/5・土>

和佐又山ヒュッテ6:25 >> 7:35笙ノ窟7:40 >> 9:00大普賢岳(1,780m) 9:15 >> 10:50小笹ノ宿避難小屋11:30 >> 12:15山上ヶ岳(1,719m)12:30 >> 12:45西ノ覗岩12:50 >> 13:30洞辻茶屋 >> 14:10一本松茶屋14:15 >> 14:50清浄大橋(915m)15:00 >> 15:40洞川温泉・翠嶺館(845m) [泊]

 星が残る5時半起床、6時朝食、具だくさんの暖かい味噌汁が美味い。6時半過ぎ、キャンプ場上部で御来光を拝む。今日も快晴、こんな好天続きも久しく記憶に無い。和佐又山の鞍部から直に大普賢岳に向かう。指弾窟までは大きなブナの混じる針広混交の疎林帯で緩やかなハイキングコース。朝日窟、笙ノ窟、鷲の窟と岩壁下の行場を巡り終えると、これまでと一変し鎖・梯子の急登となり日本岳鞍部へ登ってゆく。ここはもう世界遺産・大峯奥駈道。

 韓国岳は登るのに日本岳は割愛するのかとの冗談を言いながら大普賢岳に向かう、石之鼻、小普賢岳と小さな鋭鋒を越えてゆく。修験の道らしく険しさは想像以上、鎖と梯子の連続に山行3日目の膝の限界も近い。他パーティにどんどん追い越されるが競う境地はとうに無い。

 石之鼻の下りでアクシデント遭遇、昨夜同宿した横浜在住の方が滑落したとのこと。腰を強打した由で岩陰で項垂れていた。同行者は救助要請の電話中、特に手伝うことは無いとのことでその場を離れる。現場は樹木の茂る岩稜でありヘリが近づくのも難しそうだ。

 小普賢岳を巻き終え1,650m付近で岩稜帯脱出、大普賢岳へは一旦山上ヶ岳側に出てから登る。時間を喰った気がするが大普賢岳(1,780m)山頂着9時はほぼ予定通り。山頂から大峰の山々、昨日の大台ヶ原を眺めている内にヘリが来た。簡単には収容できないらしく、ホバリングや周囲飛行がその後1時間ほど続いた。

 大普賢岳から先は緩やかな上り下りを繰り返し、奥駈道の史跡を辿る。しかし、脇ノ宿跡までの東側は時折絶壁が近づく。吉野側の川上村・柏木への道を分ける阿弥陀ヶ森には女人結界門が建ち、山上ヶ岳方面へは女人禁制が現在も続けられているという。程なく護摩壇のある小笹ノ宿避難小屋で昼食休憩。水場の水を沸かしコーヒーを淹れ、携行水を補充する。

 山上ヶ岳が近づくほどに稲村ヶ岳の隣、大日山の指を立てたような奇怪な鋭峰が目につく。世界遺産・大峯山寺は激しい風雪に晒されて質素と言うより枯れたような佇まいであった。直ぐ左手の山頂(1,719m)に足を運び、オフシーズンの閑散とした宿坊群を抜け西ノ覗きに寄る。

 日本三大荒行場との説明書きがあったが、因みに残りは強飯行(羽黒山)、寒行(熊の・那智大滝)とされ、これは三大修験道の場合であり、世界三大荒行(天台宗・千日回峰行、日蓮宗・大荒行、インドのヨーガ)とはまた違うとか。日本人は我慢強く修行好きなのだろうか?

 陀羅尼助茶屋までは岩場も現れるがその先は穏やかな下りとなり、洞辻茶屋、一本松茶屋と参詣者の休憩所を潜り抜け、次第に深くなる杉木立の中を下り、川の手前で再び女人結界門を通り抜け登山口・清浄大橋に出た。宿のある洞川温泉までは車道歩き約40分。

 宿は翠嶺館という民宿、予備知識は無かったが経営が山小屋の稲村ヶ岳山荘の御主人ということで選んだ。関東との風土の違いか受付時は少々違和感を覚えたが、2間続きの30畳近い部屋に通され、新しくて清潔で快適な風呂、料理は子持鮎と鳥鍋、更にお酒の量に比例して酒の肴が増えてくるというサービスは民宿離れしていた。

<11/6・日>

洞川温泉・翠嶺館7:00 >> 7:15洞川温泉バス停7:25→路線バス→8:42 >> 下市口駅8:54→近鉄→10:48京都11:18→JR→13:33 東京・散会

 今年の紅葉は不作、彩りが冴えていないと聞き、もう十分歩いたという満足感から予定していた“みたらい渓谷”散策はカットし、洞川温泉から下市口に直行することにする。バス停までは宿から温泉街を散歩するように15分、昨日までに比べて雲が多い。

 今回は本当に天候に恵まれた。また期せず全ての宿でお風呂に入れ、更に、毎晩楽しい酒席を作って戴いたメンバーに感謝、お世話になりました。

以上 記 田中秀和

(参考)費用実費[田中の場合]
 JR(武蔵五日市〜立川)310円
 夜行バス 8,000円
 JR(松阪〜三瀬谷)580円
 予約バス 2,500円
  桃の木山の家 42,500円(弁当、5人個室代込み)
  川上タクシー 8,510円
  和佐又山ヒュッテ 30,240円(7,560×4/2食)
  翠嶺館 38,500円(8,000×4 + 酒類)    
計 29,950円(≒119,750円÷4)
 路線バス 洞川温泉〜下市口駅 1,280円
 近鉄 下市口〜京都 1,170円
 JR 京都〜武蔵五日市 15,870円(10,130+5,700)
合計 59,660円




大杉谷〜日出ヶ岳、大普賢岳・山上ヶ岳の写真集

 以上

記:田中(秀)

 


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